ロンドン日記

Jellied eel

今年2023年の土用の丑の日は今日7月30日。世界の多くの地域で猛暑酷暑となっているが、ロンドンでは7月に入ってから涼しい日が続いている。これほど涼しければ、鰻を食べずとも夏バテと無縁の盛夏を過ごせそうだ。夏バテどころか、買い物の帰りに通り雨に降られて身体が冷えたのか、数日間風邪気味だった。

先日スーパーの見切り品コーナーを物色していたら jellied eel が安くなっていた。その名の通り鰻のゼリー寄せ。鰻にはゼラチン質が多く含まれるので煮汁を冷まして煮凝りとして作ることもできるだろうが、原料として記載されている牛ゼラチンを使って固めたのだろう。鰻をぶつ切りにして煮たので、鰻の蒲焼きとはかけ離れたもので、全く違う味と食感。白身魚に近いと言えようか。少し生臭くもあり、苦手な人も多いだろう。私の友人知人に jellied eel を好んで食べる人はいない。

食べ方としては一般的に唐辛子の入った酢をかけるのだが、私は酢と醤油で食べた。山椒があってもよかったし、ポン酢でもよかったかなと思ったが、生憎どちらも家になかった。

19世紀まで牡蠣や英語で whelk と呼ばれるツブ同様に鰻は栄養価が高く廉価だったので、ロンドンの裕福ではない人たちに多く食されてきた。しかしそれは昔の話。牡蠣は今や高級品になっているし、ツブは海沿いの街では売っているがスーパーで見かけたことはないし、鰻のゼリー寄せは一部のスーパーで売られているがロンドン以外で販売されているだろうか。同じ会社のスーパーでも店舗によってあったりなかったり。そして必ずしも大きい店舗にあるということもないので、需要が見込めるところだけ置いてあるのだろうか。

17世紀の料理本 The Accomplisht Cook に鰻の調理方法がいくつもあり、ゼリー寄せも載っている。一つは煮込みのレシピで、ゼリー寄せにするなら最後に魚の浮袋を原料とした魚膠のアイシングラス (isinglass) を投入するというもの。もう一つは下記の通り。なおこの本の初版は1660年だが、ここでは Google ブックス検索で見つかった1665年に出版された第2版を引用している。

Fley an eel, and cut it into rouls, wash it clean from the blood, and boil it in a dish with some white wine, and white wine vinegar, as much water as wine and vinegar, and no more of the liquor then will just cover it ; being tender boild with a little salt, take it up and boil down the liquor with a piece of isingglass, a blade of mace, a little juyce of orange and sugar ; then the eel being dished, run the clearest of the jelly over it.

鰻の皮を剥いでぶつ切りにして血を抜いて鍋に入れる。鰻がかぶるほどの適量の白ワインと白ワイン酢そしてワインと酢を合わせたのと同量の水で煮込む。塩少々を加え、熱して柔らかくなったら鰻を取り出し、煮汁にアイシングラス1片・メース1片・少量のオレンジの絞り汁と砂糖を足して煮詰める。鰻を皿に盛り付け、一番透明なゼリーをかける。

出典 - Robert May, The Accomplisht Cook, Or The Art and Mystery of Cookery (2nd edn., London, 1665), 353 - www.google.com/books/edition/The_Accomplisht_Cook_Or_The_Art_and_Myst/7dhopy-AJ98C?gbpv=1&pg=PA353

この17世紀のレシピは現在の jellied eel とも違いなかなか美味そうだが、鰻はやっぱり蒲焼に尽きると思ってしまう。