ブリュッセルの街をあるいていると、美しい建築物と醜い建物が混在している。近世の石造りの建造物や Horta のアール・ヌーヴォー様式があれば、すぐ隣にお世辞にもきれいとは呼べない、無機質で重苦しいコンクリートの建物が乱立する。昔はこのような60・70年代の現代建築に対し、全面的否定派だったが、最近は歳をとったのか、現代建築の良さも分かってきたような気がする。それでも、やはり他の時代に比べると、まだ好きになれない。
ブリュッセルでは最近まで歴史的建造物の保護保全にあまり熱心でなかった。再開発のためや所有者に保全費用がないなどの理由で、多くの建物が取り壊されたり、長期間放置されたままの状態になっていた。悪質な場合、保存対象になった家屋を取り壊して再開発したい所有者が崩壊寸前まで待ち、取り壊さざるを得ない状況に持ち込み、更地にしたり再開発する許可を得ようとした。これがブリュッセルでは顕著だったので、bruxellisation / verbrusseling と呼ばれる現象となった。そのため、アール・ヌーヴオーの建物が何軒も失われた。
その名残か、ブリュッセルの多くの場所で、今でも半ば廃墟となったままの建物がある。保護保全に努めるようになったが、それでも、一度失われてしまったものを取り戻すことはできないし、短期間に全ての歴史的建造物の面倒を見るほどの財政もない。文化は常に変化するもので、何をもって美しく文化的価値が高いと感じ保存に値すると判断をくだすのか、消えゆく、人気のない建物は問いかけているのかもしれない。
関連リンク:ARAU(ブリュッセルの都市空間と建造物の研究や保全に携わる団体:仏語と英語で案内されるツアーを企画している)