ベルギー | 政治危機再び

ベルギーの政治における仏蘭語圏対立の一番の問題点の B-H-V について

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B-H-V

最近のベルギーの新聞の見出しを読んでいると、またしても連立離脱や政治危機の文字が並んでいる。見出しにはたいてい B-H-V というのもついてくる。この B-H-V は Brussel-Halle-Vilvoorde の頭文字。ベルギーにある選挙区、そして司法区だ。そしてこの1選挙区・司法区を巡る問題は単なる行政や政治制度の問題というよりも仏蘭2言語圏の対立の縮図のようなもの。

ベルギーには議会と政府がたくさん

ベルギーの政体を簡単に説明できる人はいないと思う。できる方がいらっしゃれば、ぜひご教示頂きたい。下記はあくまでもベルギーの政治には詳しくない者が、新聞やウェブサイトを参照に纏めたもの。まず、国家レベルから。ベルギーの連邦議会(Parlement fédéral / Federaal Parlement)は2院制。上院(Sénat / Senaat)は一部直接選挙で一部は間接選出と任命制となっていて、下院(Chambre des Représentants / Kamer van Volksvertegenwoordigers)は定数が150で比例代表制。下院で議席を獲得するにはその選挙区で5%以上の得票が必要とされる。選挙区は B-H-V と Leuven と名付けられたフラームス=ブラバント(Vlaams Brabant)州東部を除き、州が選挙区と重なっている(フランデレン地域:Antwerpen, Limburg, Oost-Vlaanderen, West-Vlaanderen | ワロン地域:Hainaut, Brabant Wallon, Namur, Liège, Luxembourg)。社会保障や多くの税制は連邦の権限となっている。

もちろん州や地区行政もあるが、連邦政府の他にいくつもの議会や政府がある。フランデレン・ワロン・ブリュッセルの地域(Vlaams Gewest, Région wallonne, Région de Bruxelles-Capitale / Brussels Hoofdstedelijk Gewest)、そして蘭語・仏語・独語(Vlaamse Gemeenschap, Communauté française, Deutschsprachige Gemeinschaft)のいわば言語別の議会と政府。大雑把に言えば、地域政府はその地域全般の政策を立て、言語別政府は文化や教育の分野で影響を持っている。フランデレン地域政府と蘭語政府は同じで、ワロン地域政府と仏語政府も主要閣僚は同じ。フランデレン地域と蘭語の議会は124名でそのうち6議員がブリュッセルから選出されている。一方ワロン地域議会は75名、そして仏語議会はワロン地域議会にブリュッセル選出の19名から構成されている。ベルギー東部、ワロン地域の Ostkantonen に独語人口が住んでいて、独語議会は定数25議員。

誰がどの政策において権限を持っているか、分かりづらいところがある。連邦議会では一応多数決で決めることができるが、地域あるいは言語に関連することは仏語と蘭語の各グループで過半数を得ないといけないので、実質的には連邦政府は仏語と蘭語両方において多数を擁する必要がある。

B-H-V の問題点

さて、話を B-H-V に戻すと、この選挙区・司法区は首都ブリュッセルを構成する19区とフラームス=ブラバント州西部の35行政区より成っている。ブリュッセルは仏蘭2カ国語圏だが、フラームス=ブラバント州はフランデレン地域。フラームス=ブラバント州にある35行政区の内6区は communes à facilités / faciliteitengemeenten と呼ばれている。これらはフランデレン地域つまり蘭語圏に位置するが、仏語人口が一定(30%以上)の割合で住んでいるため、蘭語とともに仏語で行政サービスを提供している。ブリュッセルは表向きは仏蘭2カ国語だが、仏語を話す人が断然多い。ブリュッセル都市部から蘭語圏の郊外に居を構えようとする人が増えている。そのため、仏語人口が大きくなりつつあり、長く住んでいる蘭語人口との摩擦を生んでいる。一部の行政区では仏語を話す人が移住し難いようにいろいろ難癖をつけていて、蘭語を話さない人への土地や家の譲渡を阻んだケースもあったり、学校の敷地では仏語が母語の親子であっても蘭語のみを使うべきなど、外から見るとかなり極端な政策もある。

上記のように B-H-V はベルギーにある州で唯一選挙区として分割されている。そのため、地域が違うブリュッセルとフランデレン地域に属するフラームス=ブラバント州西部が共通の選挙名簿を使うことになっている。つまりフランデレン地域フラームス=ブラバント州に住んでいる仏語人は他の地域であるブリュッセルの仏語の政党の被選挙人に投票できる。一方、ワロン地域ブラバン・ワロン州に住む蘭語人口にこのようにフランデレン地域あるいはブリュッセル選挙区の蘭語政党に投票できる機会はない。これは地域と言語などを細かくわけた政治体制に反することもあって、違憲と判断されていた。また司法でも一つの区域とされているため、例えば仏語を母語とする裁判官が蘭語圏の人の件を裁くことがあるのが問題となっている。

解決策は?

フランデレン地域の政治家の多くが B-H-V を解消して、選挙区をブリュッセルと Leuven と統合したフラームス=ブラバント州に分けるべきと主張していた。一方ワロン地域の政治家によれば、これは仏語人口の投票が仏語の政党に割れれば、フラームス=ブラバント選挙区の5%に至らず、死票となり、非民主的な制度ということになる。もちろんブリュッセルが単独選挙区となれば、仏語政党が有利になるが、仏語の政党としては受け入れ難い。どのようにこの B-H-V を分割するかで長い間揉めていたが、しびれを切らした Open Vld: Open Vlaamse Liberalen en Democraten 直訳すれば「開かれた自由と民主党」が、期限を設けて連立離脱を表明した。

【現地時間15:45】Open Vld 連立離脱。Yves Leterme 首相、王宮に赴き国王に辞意を表明。