これまでアーヘン(Aachen)は電車に乗っていると通過する町に過ぎなかったが、ブリュッセル・アーヘンの間のタリス(Thalys)の運賃が安いこともあり、また www.priceline.co.uk でかなり割り引かれた宿泊先を見つけたので、週末に行ってみた。
生憎、風強く、天気予報によれば降水確率も50%以上と、夏の筈なのに肌寒く旅日和ではなかった。ブリュッセル南駅に行くと、目が回りそうな速度で暗い雲が移動している。これから天気はどうなるものか、心配しながら、赤と灰色の車体のタリスに乗り込む。ブリュッセル南駅では掏摸の被害が多いと言われているので注意が必要。一人が通路や乗降口を塞ぎ、後ろにもう一人いて、挟み撃ちの形で財布や携帯電話やカメラを抜き取る手法が多くあるらしい。そんなこともなく、乗降口には車掌がいて、目を光らしている。乗車のときに、タリスのチケットレス・カードを提示する。
パリ・ブリュッセル間はよく混雑するが、ブリュッセルからアムステルダムやケルン行きの電車には空席が目立つことが多い。ブリュッセルから東にルーヴェンを過ぎ、リエージュに至る。リエージュ出発後は、起伏あるアルデンヌ地方を Vesdre / Vesder 川沿いに通る。この付近には温泉があり、保養地ともなっている。19世紀の煉瓦造りの建物を見ながら聞こえてくる車内アナウンスは仏・蘭・独・英の4カ国語で、最初の言語は現地のもの。だから仏語圏ベルギーのリエージュ到着前ではフランス語、アーヘン前ではドイツ語という具合。ブリュッセルから約1時間20分でアーヘンに到着する。アーヘン中央駅は中規模で、ドイツの都市の典型的な駅で、駅構内に店が数店入居していて、駅前にはケバプ屋と中華料理店が並ぶ。結局この日、一時小雨が降ったが、それ以外は曇で青空も多少はあった。
駅から歴史的建造物が残る中心部まで徒歩で15〜20分で、住宅街や商店街を歩くと、土曜日とあってか至って静か。Elisenbrunnen という所にある観光案内所で「アーヘンでは何を見学するべきですか」と尋ねると、やはり大聖堂(Dom)と市庁舎(Rathaus)との答え。あとは Couvenmuseum という博物館の見学もすすめていた。あまり焦らずにゆっくり見学するので、今回の観光の主眼は大聖堂と市庁舎に的を絞ることにした。
でも、まずは腹ごしらえ。街の大聖堂・市庁舎近くにはレストランが数軒ある。市庁舎に隣接した Zum Postwagen というのに入ってみる。日本語であれば、郵便の中継点となる「宿駅」か「駅家」だろうか。肉が中心のドイツ料理がメニューに並ぶ。豚肉のオンパレードのような料理を注文したら、血のソーセージやらベーコンやらハンバーグやらがどんと皿の上に並び、タンパク質と脂肪と塩が口内に広がる。一応大食いの方になるだろうが、とても食べきれなかったし、かなり塩っぱい。
昼食後、まず大聖堂と宝物館のツアーに参加するために、宝物館入口で券を買おうとしたら、日に一回の英語のツアーは売り切れていた。当日しか販売していないので、明日来ることにして、市庁舎を見学する。最初の市庁舎は1349年に落成。でも、戦渦や火事や第2次大戦の空爆などで、何度か修復されたが、それでも見学する価値は充分ある。入場料は大人5ユーロで、最初の部屋はバロック調で市庁舎として使われていた歴史を辿る。この市庁舎の入館料にはAVガイドの料金が含まれている。そしてこのガイドはかなりの優れもので、それぞれの部屋について、いかにもドイツらしく詳しく説明する。この市庁舎で一番有名なのが戴冠の間(Krönungssaal)で、大きく天井高く歴史を感じさせる。
アーヘンの街を歩いていると目につくのが、Printen を売っている店。香辛料入りのビスケットで、いろいろな種類がある。ベルギーやオランダの speculaas / speculoos にどことなく似ている。1枚食べてみたが、病み付きになるほど美味いとは思えなかった。しかしここでは有名なので、試してみることは必要だろう。傘を持ってくるのを忘れたので、雨が降り出したので、デパートで一本買う。
1泊するホテルは安いのだが、街から駅の反対側にあり、かなり遠い。小雨が降る中歩くと、まず住宅街、次にキャンプ場、そして農家を過ぎたところ、ちょっとした集落があり、ホテルはマンションを改築したような外観。「スパ」とあって、プールやマッサージなどがありアーヘンの観光客向けというより、長期滞在で保養が目的の人が多いのかもしれない。ホテル内のレストランも至って静かだったが、食事はなかなか良かった。まだ明るい外をみると小雨。
日曜日、遠くから聞こえる鐘の音に誘われるかのように、ホテルを出て、市街地に向かう。昨日ほどではないが、それでも小雨が時折降る天気。ドイツではまで日曜日営業が一般的ではないので、飲食店を除きほとんどの店が閉まっている。まず大聖堂に行き、英語のツアーの切符を買って、露天市を見て、街を歩き回っていると昼近くになり、昼食にすることにした。向かったのは、歴史的地区からちょっと離れた、高級ホテル Sofitel 内にある La Brasserie というレストラン。閑散としていたが、食事は高めだが、この小旅行中では一番良かったので、時間があれば昼食なり夕食に薦められる。
ゆっくり食事を摂ったため、朝一番で買った英語での大聖堂ツアーには間に合わず、ドイツ語のツアーに参加した。口頭の説明はドイツ語だが、必要とあれば、ツアーの内容が訳されたパンフレットが配付されるので、特に問題はないが、質問などはできないかもしれない。ツアーには是非参加すべき。大聖堂の一部は開放されているが、宝物館や歴代皇帝が座った石席などはツアーに参加しないと見学できない。宝物館にある展示物や装飾品はつい息をのむように美しい。やはり世界遺産だけのことはあり、建築的にも素晴らしく、ヨーロッパ中世の世界を垣間見ることができるような感覚。この大聖堂見学のためだけにアーヘンに来ても損はない。
帰りの電車の時間まで、カフェでコーヒーをゆっくり飲む。外は依然風が強く、散歩日和ではない。これまであまり人を見なかったが、街の中心で、市庁舎の真向かいにあるカフェは賑わっていた。駅まで人影まばらの道を歩き、電車に乗り込み帰路についた