抽選倍率が非常に高かったり、即完売した種目が多い中、大量に券が売れ残っているのが女子サッカー。女子サッカーに対する偏見、そしてロンドン以外のサッカー場で試合が行われることが、理由として挙げられるだろうか。コヴェントリーで、昨日2012年7月28日に行われた、日本対スウェーデン、そしてカナダ対南アフリカの2試合の券を確保し、観戦した。コヴェントリーはロンドンから北北西に約150キロメートル、バーミンガムにほど近いところにあり、人口は30万人を少し超える英国の中堅都市。第2次世界大戦では、ドイツ空軍の空爆を受け、甚大な被害を被ったことで知られている。
サッカーは試合を観ると、どうも監督気分になってあれだこれだと言ってしまう。言うのは簡単で、実際に監督としてチームを率いたり、国の代表として参加できる選手は限られている。それなのに、監督や選手は謂れのない批判を受けてしまうケースも多い。もっとも、それはそれだけ期待されている証かもしれないが。
さて、この試合で、日本代表が得点できなかったのは、残念だったが、試合内容は非常に良かったと思う。違う日だったならば、シュートの内一本は入っていたかもしれない。しかし、攻撃は、全般的に何となく、慌て過ぎ、焦り過ぎていたように見えた。これはシュートの前そしてその前のパスに、もう少し時間をかけても良かったように見えたから。スウェーデンの守備体制はラインを巧く保った4名の守備選手の前に、3人あるいは4人の中盤選手による守備線。この守備選手と中盤選手による2本の守備線に間があまりなかった。ここの空間をいかに作るかが課題だろうか。これは、ある意味ひどく難しい注文かもしれないが、日本代表の技量と能力を考えれば可能であるからこそ、欲張ってのこと。
守備は試合を通して非常に評価できるものだった。空中戦をほとんど制したのは圧巻だったし、ボールの動きを素早く把握したり、プレッシングをかけたりと、スウェーデンに全くと言ってよいほど、攻撃の余地を与えなかった。例えば、座っていた席の位置の関係で、一番よく見えたのが、前半の鮫島選手の動きだったが、まさにこのボールを読む巧さには驚いた。球の支配率は、数字の上では、日本58%にスウェーデン42%だったが、観た限りでは、それ以上の差があった。当たり前の話だが、攻撃力がなければ、得点できない。得点できなければ、もちろん勝てない。しかし、守備力がなければ、点を取られてしまい、負けてしまう。強いチームは、一般的に守備の強いチーム。この日の日本代表は、その意味で非常に強いチームだった。スウェーデンはパスを回すことができず、頭上を超えるロング・パスを放つようになった。これは日本に球を奪われ続けたために、そうせざるを得なかったため。ロング・パスにFW対策もしっかりと行なっていたため、スウェーデンに得点の機会を試合の大半は許さなかった。
日本代表は個としても、チームとしても優れているのは、前述通り。しかし、その中でも一際素晴らしかったのは、澤選手だった。ボールの動きをいち早く見極め、反応し、次の動きに繋げた。これはセット・プレーの守備でもそうであったが、中盤での存在感が圧倒的だったという点に尽きる。例えばスウェーデンのパスを阻止するだけではなく、奪って攻撃の起点となったことが数回。それ以上に、相手に空間を与えなかった。もっとも、そのため、ミスも目立ってしまうのだが。澤選手が中盤中央を抑えているため、日本の攻撃の選択肢は増えるし、スウェーデンは攻めることがあまりできなかった。これはあまりテレビに映ることはない。なにせ、テレビはボールを追うから。しかし、サッカーでは、ボールを持っているときに何をするかではなく、ボールを持っていないときにどのように動くかが重要なことが多い。そして、相手に空間を与えない守備は時として全く目立たない。澤選手が59分に退いたあとは、中盤に幾ばくか空間ができてしまい、最終10分ほどはスウェーデンに攻め込まれた。他の日本代表選手にも同様のことをできる選手はいるだろうが、澤選手ほど常に素早くそして的確に動ける選手はいるだろうか。極端な言い方をすれば、日本代表は澤選手がいなくても点を取れるチームだが、澤選手がいなければ点を取られやすくなるチームのように見えた。
もちろん日本代表ということで、贔屓目に見ていることもある。また、サッカーをどのように観るのか、チームに何を求めるのか、それは人それぞれだろう。それでも、女子の日本代表のサッカーは観ていて面白いと思う。男子サッカーの試合ほどのスピードや力はないかもしれないが、技術や戦術や組織力の面、つまり個人的に思う「美しい」サッカーで、非常に優れているから。
早くに入場したこともあり、サッカー場はガラガラだった。日本・スウェーデン・カナダ・南アフリカの4カ国のサポーターが集まっていたが、日本のサポーターが一番多かったように見えた。