The News of the World という英国の日曜紙が、違法盗聴および警察官買収を行ったことが明らかとなり、先週廃刊となった。また親会社の News Corp は計画していた衛星放送会社 BSkyB の完全買収・子会社化を断念。そして、盗聴疑惑は更に広がる様相を呈している。米国の2001年9月11日同時多発テロの被害者の携帯電話が盗聴されたのではないかという疑惑が持ち上がり、連邦捜査局 (FBI) が捜査に乗り出したらしい。また英国で警察官を買収したことは米国の連邦海外腐敗行為防止法 (The Foreign Corrupt Practices Act) に抵触する可能性があるので、会社にとってはかなり厄介な時期が続きそう。
News Corp にとって BSkyB 買収を一時的にしろ断念せざるのをえなかったのは大きな痛手だろう。この買収計画は News Corp のテレビ・メディアを中心にする方針に沿ったもの。この路線はメディア会社の「脱新聞化」なのかもしれない。The News of the World を切り捨てたのは、切っても大した痛手ではないことを物語っているし、同社は保有する他の新聞 The Times や The Sunday Times を売却するのではないかという臆測も流れている。紙に印刷された新聞を買い求める人々が減り発行部数は減少中で、それを補うウェブでの収益もまだまだ向上する必要がある。
電話盗聴などの違法行為がこの1紙に限らず、他の新聞でも行われていたとすれば、英国の新聞業界への信頼は揺らぎ、衰退が加速するかもしれない。新聞は存在しつづけるだろうか。もし存在するとすればどのような形なのか、中長期的にどうなるのか、紙面やテレビでここ数日盛んに議論されている。
英国メディア界で一番重要なのは BBC だろう。起きたニュースを即時に発信し、情報を分析する能力はずば抜けていて、テレビ、ラジオおよびインターネットでの存在力は巨大。しかし、公共放送ということもあり、中立性が求められている。そのため、ニュースをどのように解釈したり評価したり、調査報道をもとにするスクープは新聞によるところが多い。BBC のニュース放送では、新聞の報道内容に関して、政治家や専門家の意見を求めることが日常的。BBC が発信ら中立性の観点から問題となるが、新聞が報道すればそれ自体がニュースとなり、BBC が取り上げることもできる。つまり、英国の新聞はその日のニュース報道を形作る役割を果たしていることが多い。
紙に印刷された新聞がすぐに消滅するということはないとは思わないが、これまで以上にインターネット中心になるかもしれない。媒体がどうであれ、新聞なしの英国政治と社会というのはよく想像できない。