英国 | メディアと警察:構造的癒着

2011年7月18日

英国首都警察の警視総監が昨日2011年7月17日、そしてテロ対策などを担当する警視監が今日201年7月18日、相次いで辞任した。新聞社による電話盗聴疑惑の輪が広がり、三つの P (press, politics, police) つまり新聞メディア・政界・警察の構造的癒着が明らかになってきている。

警視総監(The Commissioner of Police of the Metropolis)の Paul Stephenson 氏の辞任は The News of the World の元副編集長で、最近電話盗聴疑惑関連で逮捕された Neil Wallis 氏を、2009年10月から2010年9月にかけて、首都警察のメディア顧問として雇ったことが原因。また Wallis 氏がコンサルタントとして働いていた高級保養施設から、違法性はないにしろ、無料で長期滞在するという便宜供与を受けていたことが明らかになっている。

警視監(Assistant Commissioner of Police of the Metropolis)の John Yates 氏は今日辞職。理由は大きくあげて2つあると報道されている。まずは Wallis 氏が首都警察に雇われたさいに、Yates 氏はいわば身辺調査を行ったが、上記のように Wallis 氏には顧問という立場に相応しくないところがあったにもかかわらず、任命に反対しなかったこと。もう一つの理由は、2005〜6年に行われた電話盗聴疑惑関連の捜査の検討を2009年に行ったさい、再捜索を否定したことがあげられている。

ちなみに2005〜6年の捜査では、王室と王室に近い人々の電話番号などが流出したことを重大事件とみなし、そこに捜査の重点に据えた。その結果が私立探偵と王室担当記者の立件だった。のちにこの私立探偵と王室担当記者が有罪判決を受けたが、新聞社の組織的犯罪という点を見逃した。多くの証拠がこの時点で押収されていたので、なぜ The News of the World という組織の全体を捜査対象としなかったのか、今問題となっている。この捜査を担当した Peter Clarke 氏によれば、当時、2005年7月7日のテロ事件や航空機空中爆破計画などの捜査があり、電話盗聴疑惑に人員を充てることはできず、とにかく王室に関連する犯罪のみ素早く立件する方針を固めたとしている。まず2005〜6年の時点でちゃんとした捜査が行われず、そして2009年になぜ再捜査がなかったのか、訝しがっている人が多い。

警察上層部と新聞社 News International 社の間柄はどれだけ緊密であったのか、これから明らかになるだろう。すでに情報を提供するかわりに金銭を受領した警察官の存在が明らかになっている。そして首都警察の階級最高位の警視総監と3位の警視監が相次いで辞職するという大事態になった。この電話盗聴疑惑はメディア界のみならず、警察をも大きく揺るがしている。さらにこの疑惑は政界に飛び火する可能性が充分ある。これは Cameron 首相が The News of the World 元編集長の Andy Coulson 氏を首相官邸の報道局長として招いたため。Coulson 氏が編集長であった時期に多くの電話が盗聴されていたことが明らかになっている。今年1月に報道局長の職を辞した Coulson 氏はすでにこの電話盗聴疑惑の件で逮捕されており、首都警察トップが昨日引責辞任したことで、任命責任を巡り今後風当たりと野党の追及は厳しくなることが予想されている。

三つの P の構造的癒着を見れば、今後更に輪が広がることはさして驚くべきことではないのかもしれない。英国、不穏の夏の模様。