英国では1980年代後半から、国鉄、電話、電気やガス、水道など、社会資本の多くが官から民へ渡った。もともとは保守党の政策だったが、労働党も民営化路線を走り続けた。今、その民営化政策が行き詰まっている。
まずは鉄道。ロンドンとエディンバラを結ぶ East Coast Main Line、訳せば「東海岸本線」を運営していた、バス会社として有名な National Express が運営から一方的に撤退した。なぜこうなるかというと、鉄道の民営化は「上下分離方式」で、鉄道会社は運営権をフランチャイズとして国から落札しているからだ。鉄道会社は政府と交渉して、一定期間の運営権に対し国へ金を納める。National Express は、2007年12月9日から2015年3月31日までの運営権に、14億ポンドを支払うことになっていた。この東海岸本線はドル箱路線だが、景気悪化もあり、利用者も予想通りには増えず、利益が上がらず、合意した額を払うことができなくなった。そのため、一時国有化され、来年この路線の運営権のフランチャイズ入札を行うこととしている。しかし現在の不況下では、国により有利な条件でのフランチャイズはないだろう。なお、線路や駅などの鉄道インフラは、一時民営化されたものの再国有化された Network Rail が保有している。
そして政府は、労働党内や組合からの反対が根強かった、郵便の一部民営化に関連する法案の提出を断念。一部民営化は、郵便事業の経営改善のためには必要だと政府はこれまで強く主張してきたので、ブラウン政権の弱さを物語っている。
他の民営化された事業も、利用者からすれば、サービスは少しよくなったものの、決して競争が強まり値段が下がったわけでもない。そのため、英国人の多くが、民間資金を公的設備投資に使う PFI (private finance initiative) や PPP (public-private partnership) を含む広義での民営化に対し懐疑的。これからも労働党と保守党、両党ともに民営化を推進するのか、政論となりそうだ。