サッカー・クラブは誰のもの?

英国は部族社会である、などと主張する人もいるらしい。なんでも応援するサッカー・チームがすなわち帰属する部族だという。そうなると、私の住んでいるところは、フラム族とチェルシー族の居住地ということになる。一部の大きな有名なクラブは世界中にファンにいるが、プレミア・リーグでも上位の常連でなければ、地域密着型のサポーターが多い。

チームのオーナーが何かを鶴の一声で変えようとすると、反対が起きる。特に外国人がクラブを買収すると、いろいろとゴタゴタが起きうる。名門クラブのリヴァプールやマンチェスター・ユナイテッドでも、外国人オーナーに反対する抗議があった。さて、最近話題となっているのが、イングランド北東のハル (Hull) のチーム。オレンジと黒の縦縞のユニホームで、タイガースという名が付いているが、チーム名はハル・シティ。オーナーはハルに長い間住んでいるが出身はエジプトのアッセム・アッラム氏で、彼はチームの正式名称をハル・シティからハル・タイガースに変えたいという。マーケティングの観点から、シティだとつまらないから。しかし、この改名の動きに、サポーターの一部は猛反発。「我々は死ぬまでハル・シティだ」という横断幕を試合に持ち込んだり、抗議デモがあったりという状況に、アッラム氏は「それならとっとと死んでしまえ」とも読み取れる発言をして、サポーターの更なる反発を買っている。

所有しているのだから、オーナーが名前を変えたければ、サポーターは文句を言うべきではないという意見もあるだろう。しかし、部族なしに部族長は存在しえないし、サポーターの応援がなければ、チームの士気も下がるだろうし、もし降格となったり、チケットが捌けない状態になったりしたら、経営も難しくなるだろう。そして、サッカー・チームは個人のおもちゃではなく、オーナーは伝統と歴史を重視すべき一時的なクラブの「保持者」に過ぎないという意見もある。更に言えば、法的な所有者は別として、クラブはファンのものという考え方も根強い。その気持ちは分からないでもないが、スター選手の移籍金や年俸がすごい金額となり、金銭力が物を言う時代に、そんな感傷的なことは言えないのかもしれない。

ハルは第13節を終えた現在、勝ち点17で10位と堅調。しかし、もしこのような内紛が続けば、ピッチ上にも影響を及ぼすだろうか。