結論から言えば、私は日本の参議院は不要だと考える。少なくとも現在の形の参議院は不要。そのため、憲法改正が必要だと思っている。日本では国政選挙が多い。衆議院議員の任期は4年で、それに3年毎に参議院議席の半数の選挙が行われるので、衆参同日選挙というのもあるが、衆議院と参議院では選挙の日程が合わないことが多い。もし参議院が良識の府としての役割を果たしているのであれば問題ないが、実質的には政局の府であり、議院内閣制なので、法案を通すために首相は衆議院そして参議院で過半数を必要とするし、野党も参議院でできるだけ政権運営を難しくしようとする。つまり両院で多数派をどのように形成するかが問題となり、どうしてもその場凌ぎ、あるいは短期的政局優位を目論むことになってしまう。その一方、両院で安定多数を擁する政府・与党は、通そうと思えば無理に無理な法案を通すことができる。
議院内閣制の英国で、選挙で選ばれるのは下院の庶民院(House of Commons)の議員だけで、上院の貴族院(House of Lords)は任命制。英国の「ウェストミンスター・モデル」に基づく英連邦のカナダでも、上院の元老院(Senate)は任命制。そのため、英国・カナダの内閣は、直接選挙で選ばれた下院の信任を得る必要がある。そして上院には内閣を不信任する権限はない。一方、オーストラリアの上院の元老院(Senate)は米国上院に似ていて直接選挙で選ばれるし、権限も非常に強いので、実質的に内閣に不信任を突きつけることができる。「ウェストミンスター・モデル」以外の議院内閣制の国々でも二院を直接選挙で選ぶのはまれ。ドイツでは、下院の連邦議会(Bundestag)は直接選ばれるが、上院の連邦参議院(Bundesrat)は各州が任命している。スペインも下院の代議員(Congreso de los Diputados)と上院の元老院(Senado)からなる二院制で、上院も多くは選挙で選ばれるが、一部は州から任命される。首相がころころと変わるのは日本とイタリアなどとよく言われたものだが、議院内閣制で両院とも直接選挙で選ばれることが、理由の一つなのかもしれない。
大統領制の国々では、一般的に行政府と立法府がはっきりと区別されているので、立法府選挙の結果によって、大統領が失職することはない。例えば米国では2年毎に立法府選挙が行われ、下院は全議席改選、上院は約3分の1改選される。大統領が属する政党が大敗した場合、掲げる政策を立法して実行するという点で政権運営は難しくなるかもしれないが、大統領としての立場は変わらないし大統領としての権限が損なわれることもない。また米国の場合、大統領に立法府の解散権はない。フランスも二院制議会で、大統領が直接選ばれる制度。第5共和政フランスの大統領の立法府に対する権限は、米国大統領よりも強い。大統領は直接選挙で議員が選出される国民議会(Assemblée nationale)の解散権を有していて、これまでにド=ゴール、ミッテラン、シラク各大統領が国民議会を計5回解散している。ただ、以前は大統領の任期が7年だったのが2002年の改憲で5年となり、大統領と国民議会議員の任期が同期間となり、大統領選挙の後に国民議会選挙が行われ、大統領と国民議会多数が左右の大まかな区別では一致するようになった。
例えば道州制を導入つまりは日本を連邦国家化して、地域に大幅な権限が移譲されるのであれば、任命制のドイツの連邦参議院や人口比ではなく直接選挙で各州2議員選ばれる米国の上院のような形で、連邦内の道州の権利を守るという形の参議院があっても良いだろう。または、衆議院の任期を3年として法的に「首相の解散権」を認めず、衆議院全議席改選と参議院半数改選を同日に行うという案もあるかもしれない。しかし、似たような構成で両院の役割が明確でなく、事実上優劣がない場合は、どうしても政府は両院で多数派工作に走るだろう。そのため、現在の日本の政体の中の国会は一院制でも良いのではないだろうか。