ダフ屋という謎

いつも疑問に思っていたことに、ダフ屋の存在があげられる。ウィンブルドン選手権の会場近くに住んでいるので、夏の大会期間中はロンドン地下鉄サウスフィールズ駅の前でよくみかけるし、他のスポーツやコンサートの会場の入り口近くにも必ずいる。もちろん券がいらなかったり余剰に持っている人からできるだけ安く買い取り、券を欲しい人にできるだけ高く売りつける商売だというのは分かる。でもどのようにしたら、必要な券を確保して全部捌けるのか、分からなかった。一枚一枚のマージンが非常に高いわけでもないだろうし、余った券を持っている人も、券を買いたい人も不特定数のはずで、また他のダフ屋との縄張り争いや競争もあるだろう。だいたい試合やイベントが終わったらチケットは価値を失い、買ったのに売れ残った券があれば、それだけ儲けが減るし、下手したら赤字になってしまうだろう。チケットとしての価値がない紙切れを買うのは、アリバイ工作が必要な人か経費の虚偽申告をする場合くらいしか思いつかないので、特に需要があるとも考えられない。

もう数週間前になるが、不精でだらだらとテレビを観ていたら、BBCがドキュメンタリー番組でダフ屋を取材していた。ダフ屋全員がそうだというわけではないだろうが、このダフ屋は事前に電話で注文を受け付け、当日に会場近くで受注分の券を買って、依頼主に引き渡す約束をしていた。なるほど、そうすれば、必要な券の枚数を事前に把握できるし、また値段についても合意しているので、売上高がわかる。そのため、ダフ屋としては、会場近くで必要な券だけを、できるだけ安く買えばよい。安く買うほど儲けが大きくなる。それでも、どうすれば約束した分の券を確保できるかという、非常に重要な不確定要素が残るし、ときには需要と供給の関係でどうしても無理ということもあるだろう。このダフ屋は昨年のラグビーのワールド・カップの開幕戦では、受け付けた注文分の券全てを来場者や他のダフ屋から会場外で買って確保することができなかったため、たいした収入にはならなかったらしい。

この番組では取り上げられていなかったし、信憑性も定かではないが、インターネットで調べてみたら、悪質なダフ屋はチケットを偽造したり過去の日付の券を売ったりするらしく、また他にダフ屋の供給源となっているのは、スポンサーや関係者に配布された無料券が言わば横流しされた場合や、イベントが不人気で額面だと客が集まらないので興行者が実質的な値下げのために流通させることもあるらしい。

どれだけ実入りのよい商売なのか、見当もつかないし、ダフ屋はまだまだ謎が残る商売。今の時代、後に価格が上昇することを見越して、正規ルートで大量にチケットを買い込み、売買両方をインターネットで行う転売屋の方が多くなってきているような気もする。また、これから紙の券ではなく、例えばスマートフォンを使った電子チケットが増えてくるようにも思う。門前で「チケット、買います、売ります」と囁き続けるダフ屋は、そのうち珍しい存在になっていくだろうか。