ひどい風邪を引く

体調が良くなく倦怠な状態になるのは、単に怠け者であるせいかもしれないが、しばしばあること。数年ぶりにひどい風邪を引いて、もう3週間前のことになるが、数日間寝込んでしまった。一応回復した(とは思う)のだが、これまで以上の怠け癖がついてしまったのか、まだ何かとだるく、何もかも面倒くさく思える日が続いている。このサイトにしても、一ヶ月近く放置したまま。

話が逸れた。

寒い夕方のロンドンを散歩した翌日、激しい頭痛に襲われた。偏頭痛は数カ月に一回の割合で起こり、そうなると通常は光や音に過敏に反応して忌避するため、できるだけ暗く静かなところでぐったりとするのだが、今回はそのようなこともなく、ただ頭が痛かった。

その翌朝である2日目、小康状態になったので、少し安心していたら、午後になって、頭痛がぶり返し、高熱を伴ってきた。主な症状は頭痛、高熱、鼻水。物事に集中することができず、早めに寝る。

3日目、起きると症状は良くなるどころか悪化している。痛みや熱に加え、左眼球が痛くなってきた。鏡で見たり触ってみたりすると、見事に膨らんでいる。これは初めてのことなので、少々焦ってしまった。明朝も症状が軽くならない場合は、医者に診てもらわなければならないだろう。このような時に限って、いろいろと忙しい。

英国の国民保健サービスNHSでは、まず general practitioner の頭文字を取ってGPと呼ばれる総合診療医の診断を受ける。英国に居住していれば、通常近くの診療所に登録していて、必要であれば受診の予約をする。かかりつけの医者ということ。診断によっては薬を処方したり、専門医を紹介してもらったりする。登録してある診療所は徒歩3分のところ。

4日目、まだ症状に改善の兆しがなく、咳きこむようになったので、午前11時頃、GP診療所に電話をかけた。今日診察の予約はできるかと尋ねたら、「できない」とのこと。なんでも平日の毎朝8時半にその日の予約を受け付けると教えてくれた。午後になり、どうも消化器系の調子も悪くなり、腹痛を覚えるようになった。食欲はないが、何も食べないというわけにもいかない。このような状態で外出するのは、風邪を散蒔くようなことなので、避けるべきだろうが、一人暮らしなので、どうしようもない。スーパーの方へと歩いていると、他にも咳きこんでいる人を何人も見かけた。食べやすそうな果物やジュースを多く買った。汗・涙・洟で水分をかなり失っているので、栄養のほかにも水分補給という意味で、水や茶の他に、ジュースを一日で2リットルも飲んでしまった。

次の日、5日目の朝、8時半に診療所に電話をかけると、回線が混み合っている。数回かけ直すと、待たされた。自動アナウンスで数分おきに順番待ちの順位が告げられ、9番目、5番目、2番目と上がって、ようやく電話が繋がったのは9時数分前。今日の予約は無理だという。来週なら予約できるという。このままの病状が来週まで続けば、単なる風邪ではないだろう。電話とは違い、インターネットで午前8時から、診療所は午前8時20分から開くので、そうすれば恐らくその日の診察の予約ができるだろうと言われた。インターネットの場合は診療所で登録しなければならないので、明日の朝、診療所が開くとともに受付で予約するのがよさそう。眼球の腫れはどうやら治まったようだが、他の症状はそのまま。

6日目、やや熱が下がってきて、楽にはなってきたのだが、これだけ長い間風邪を引いたのも心配で、腹痛も治まらないし、この2日間予約することできず意固地になっていたこともあり、診察を受けることにした。朝8時20分ちょうどに診療所に行くと、すんなり9時20分の予約ができた。ついでに次の機会にはインターネットでも予約ができるように登録。これだとインターネットを使わないあるいは使えない人々や、診療所に歩いていくことができない患者は大変だと思う。

病は気からというのは正しいことだろう。医者に診てもらっただけで、気分が良くなるもの。そのくせ、医者には行きたがらないのだから、矛盾している。風邪はもう良くなりそうだから、特に心配する必要もなく、消化器系も特に差し迫った問題ないとの診断。処方箋を交付してもよいけれど、消化促進のためにペパーミント・ティーを飲んでみたらと言われた。できるだけ薬は服用したくないので、ペパーミント・ティーを飲んでみることに。

英国では軽い症状なのに、登録してあるGP診療所に行かず、救急病院に直行する人が問題となっている。「救急病院に行くのは本当に必要なときだけ」という啓蒙活動が頻繁に行われている。患者にしてみれば、直に医者に診てもらいたいだろうから、このように受診の予約が取れず、GPに診てもらうまで数日間かかると、焦ったり心配したりして、大きな救急病院に行きたがるのも分からなくはないが、NHSにおける大きな救急や大学病院の主な役割は救急患者に対応することと専門医による診察なので、軽症の人々が押しかけると病院に負担がかかる。

GP診療所での受診までに時間がかかるということの他に病院に直行する理由として挙げられるのが、無料であること。GPに診てもらおうが、救急病院に行こうが、NHSであるかぎり無料なのだ。イングランドでは、処方箋が交付された場合、薬局で£8.20を支払うことになっている。それでも16歳以下・60歳以上・妊娠中の人・NHS病院の入院患者・一部の社会保障受給者などは免除されている。去年、脂肪腫の切除手術を受けたのだが、最初にGPに診てもらってから、MRIや2度の超音波検査を経て、手術と一晩の入院まで全て無料だった。

NHSの予算の大部分は一般財源によって賄われているし、第二次世界大戦後の「ゆりかごから墓場まで」の社会福祉政策の象徴であり、実際にNHSの病院で生まれそして死ぬ人が多く、英国民にとって身近の存在で、政治的にも非常に重要。英国民の政府の評価は、その政府がNHSをどのように運営できたかによる比重が大きい。NHSが悪い状態であれば、次回の選挙で与党は不利になる。いくら重要であっても財源は無限ではない。そのため、どれだけ効率化を図り、限らた予算の中でどれだけよい医療サービスを提供できるかが、ここ数年緊縮財政という中で試みられている。

ペパーミント・ティーはこれまであまり飲んだことはなかったが、なかなか美味い。これから夜にコーヒーやら紅茶やらを飲むことは控えて、できるだけペパーミントや他のハーブ・ティーを飲むことにしよう。