未だに「じどり」と聞いて「地鶏」を思い浮かべる。スマートフォンはほぼ常時持ち歩いているし、写真も多く撮るが、自分自身は写真に写りたくない。この春、日本に一時帰国していたとき、時差ボケのまま、テレビをぼんやりと観ていたら、「魅力的な自撮りの撮影方法」という番組コーナーのナレーションがあった。「へえ、鶏の写真を撮る人がいるのか」と一瞬思った。あさましや、食い意地が張っているだけか。
今や自撮りを撮らないほうが少数派かもしれない。それでも撮らない側とすると、ときどき「こんな場所でも自撮りを⋯⋯?」という場面に遭遇する。ヒースロー空港のトイレで、手洗いカウンターの上の壁一面の鏡を背景にして、自撮りをしている若い男性の姿を見かけた。そこそこきれいで清潔だが、芸術作品が飾られているわけでもない。この男性は十代後半だろうか、中年男の私には奇抜にしか見えない、白を基調としたいかにも流行の最先端を行く身形で、旅慣れているような風。
撮った自撮り写真は、単なる記念、それとも Instagram にでも載せる? もしSNSで共有する場合、どのようなハッシュタグを付ける? 位置も共有して「ヒースロー空港のトイレ」と書き込む? フォロワーはどう反応するべき?
おじさんにはわからない。