何かが「なかった」ことを証明するのは難しい。悪魔の証明とも言われる。何かを否定をするときに必要なのは、外部から見て、信頼できる人間が信頼できる調査を経て「なかった」と結論づけること。5W1H (what, who, when, where, why, how) の中の who と how が重要で、「誰」が「どのよう」に調査したか。一般論として調査者と調査方法は客観性・透明性・中立性を保証するため公開すべき情報。
毎年のように権力と権威を持つ者が、相対的に立場が弱い人間に対して性加害や虐待を加えた事例がニュースとなっている。長らく宗教団体での性的虐待が問題になっていたし、英国では2012年にジミー・サヴィルの未成年者性的虐待が発覚し、世界的には2017年のハーヴェイ・ワインスティーンの性暴力事件が明るみになった。英国では去年2024年に高級デパート『ハロッズ』の経営者として有名だったモハメド・アル=ファイドが長年にわたって女性社員に対して性暴力を働いていたことが報道された。日本でもジャニーズ問題に始まり、松本人志に関する疑惑、そして現在は中居正広とフジテレビ関連の疑惑が注目されている。
特にフジテレビが企業として現在問題視されている。ジャニー喜多川の場合、事務所として組織化はされていたものの、組織内で絶大な権力を有していたので、権力という面で個人と会社の分離が曖昧だった。松本の場合、芸能界という業界構造の中での個人としての影響力や力関係が一連の疑惑の温床となった。言い換えれば組織的ではなく構造的。一方フジテレビの場合、上場企業かつ報道機関そして公共の電波を充てがわれて優遇されている寡占企業の一角であり、求められる企業統治はジャニーズ事務所や吉本興業とは比べ物にならないはずであり、報道されている内容はより深刻で重大だ。
週刊誌などで報道されている内容は
【1】組織の上下関係では上にあたる人間が設定した複数人が参加予定の食事会に招待されたが、他の参加者がいわゆる「ドタキャン」したため、被害者は中居と二人きりの状況になり、その状況下で示談金額9000万円に相当する「トラブル」が発生した。
【2】被害者が上司に被害を相談したところ黙殺された。
フジテレビは会社としてまた社員による関与を明確に否定した。『企業情報 - フジテレビ』というページ (www.
このたび一部週刊誌等の記事において、弊社社員に関する報道がありました。
内容については事実でないことが含まれており、記事中にある食事会に関しても、当該社員は会の設定を含め一切関与しておりません。
会の存在自体も認識しておらず、当日、突然欠席した事実もございません。
【1】の「トラブル」が中居と被害者の間にあったことは誰もが認めているが、重要なのは「当該社員」が食事会を設けるという形で関与していたのか、もし関与していたならば何を意図したのか、被害者が中居と二人きりにした場合どのようなことが起きるのか予見していたのか、そして被害者が被雇用者として上役から会社の業務に関連した断りづらい食事会と認識したかどうか。ただ「一切」関与していないと完全否定したからには、きちんと「当該社員」に弁護士や専門家による聞き取りを行い、綿密な調査を経て十分に「なかった」と自信を持って発表したのだろう。一般の企業ならいざ知らず報道機関として取材する側が多いので、それくらいは当然しているだろう。特筆すべき点として、この完全否定は被害者の告発の否定、つまり被害者は真実を語っていないと主張しているのだ。これまで性暴力やパワハラの被害者は「信じてもらえない」ことに苦しみ、否定されることで二次被害に遭って傷ついてきた。最近はようやく風向きが変わってきた。日本の場合は週刊誌媒体が中心だが、取材を重ね裏取りをして報道している。このような疑惑に関して加害者とされる者にしっかりとした説明が求められるようになった。もちろんメディアであるフジテレビはそのようなことは熟知しているはずだから、条件反射のように否定したわけではないだろう。
『企業理念|企業情報 - フジテレビ』というページ (www.
<明るい職場;Happiness>
働く人たちの個性と能力、多様性を尊重し、自由闊達な職場をつくります。
【2】に報道されたように、上司に相談したのに黙殺されたのであれば、それは「明るい職場」の対極。トラブルが十分予見できる状況に被害者を追い込んだ時点で重大な安全配慮義務違反だが、トラブル後の不作為は被害を訴えた被雇用者の心身を守るという企業として最も根本的で基本的な安全配慮義務に違反している。上司としてこのような相談を部下から受けた場合、どのように対応するのか、明確な指針があるはず。現在取り沙汰されている件は、指針に則った適切な対応があったのだろうか。なぜ報道によれば被害者は納得できなかったのか。なぜ不作為に映るような選択を会社としてしたのか。企業として不備がなかったのか、十分な説明が求められるだろう。
フジテレビの疑惑否定は、十分で合理的な調査に基づき部外者でも納得できる「真実」を語っているのだろうか。それとも実際は違うと認識しているのに、隠蔽するために否定した積極的な「嘘」だろうか。または十分に嫌疑があって、調べれば都合の悪いことが明るみに出ることを予見して、藪をつついて蛇を出すのは面倒だと、調査を全くあるいはほぼせずに結果だけ発表した「嘘」だろうか。それともきちんと調査できず、現状を全く把握できていない「無能」の表れだろうか。明日2025年1月17日にフジテレビ社長の記者会見が開かれるそうだが、何が語られるだろうか。もしこれまでの報道が事実で、フジテレビの否定が嘘か無能の表れであり、他にも似た事例があれば、解体的出直しどころの問題ではなく、現在の形のフジテレビは潰れるべきだろう。行政が放送免許を剥奪するまでもない。こんなテレビ局に今後まともな企業がCMを出稿するとも思えないから、早晩事業として成り立たなくなる。