データ・センターと水

インターネットで情報を得たり娯楽を享受することができる。多くの場合受け手は通信料金を除けば実質無料で。しかし作り手にコストがないわけではない。このサイトだってページが表示される度に、サーバーやCDNからコンピューターやスマートフォンにHTMLファイルや画像が転送されて、微額だが金銭的コストが発生する。またページや写真などのデータをサーバーに保管する費用も払わなければならない。だが動画を多く載せるサイトに比べればデータの量もかかる料金も小さいし、最初にサーバーを借りてサイトを作った2000年代始めの頃に比べると格段に安くなった。あの頃は転送量にひやひやしたもの。

コストは金銭的なものだけではない。データの通信は環境への負担も意味する。ページや画像や表示される都度に僅かながらも電力を要する。暗号資産・仮想通貨の「採掘」で膨大なコンピューターの処理能力即ち電力が使用されていることがときどきニュースにもなっているが、これから暗号資産採掘や映像のストリーミングなどに限らず大きなデータのやり取りが瞬時に行われることになる。今後もコンピューターの処理能力はより効率的になるだろうが、需要は効率化以上に伸びるだろう。そのためコンピューターが集約設置されている大規模なデータ・センターがますます必要になる。

データ・センターは莫大な電力を必要とする。またコンピューターが熱くなりすぎないように冷却装置が必要。そのため立地候補として寒冷地が有利。日本でデータ・センターが北海道にあれば気温が低いので冷却コストが下がる。でも大都市圏から遠く離れるので、その分データのやり取りに時間がかかる。ミリ秒の差だが、熾烈な競争ではそんな微差も考慮されるだろう。

コンピューターの冷却する方法はいくつかあるが、水を利用する場合、電気だけではなく水という地域によっては不足が懸念される資源も大量に消費する。

現在ルクセンブルクに Google がデータ・センターを設置する計画がある。環境NGOの Mouvement Ecologique が設置計画に反対していて、理由の一つとしてデータ・センターがルクセンブルク全体の水の使用量の5〜10%にあたる可能性を挙げている。現在の地下水の貯水量では賄えないかもしれず、数年後に市民の飲料水の確保が難しくなることを危惧している。

Marlene Brey, ‘Ein kategorisches Nein’, Luxemburger Wort, 2022年5月6日 第11面

Google は予測される水の使用量について企業秘密として明らかにしていない。米国でデータ・センターを設置した際に Google は、水を供給する水道局や自治体に守秘義務契約を課し、また一見で Google とは分からない小会社を使っていた例がある。訴訟の情報開示で Google が水道局に対して大量の水の供給を求めていることが判明している。これは Google に限らず、多くの大きなデータ・センターを運用する Amazon や Microsoft も同様だろう。

Elizabeth Dwoskin, ‘Google expands footprint in secret’, Washington Post, 2019年2月16日 第A1・A18面

Nikitha Sattiraju, ‘The Secret Cost of Google's Data Centers: Billions of Gallons of Water to Cool Servers’, TIME, 2020年4月2日 time.com/5814276/google-data-centers-water/

多くの消費者は物やサービスを選ぶときに、値段や品質のみならず持続可能性を重要視する。例えば空輸された食品であれば、どれだけの二酸化炭素排出量があったのか。今後はウェブのサービスでも二酸化炭素排出量や水の使用量の明示を求める動きがあるかもしれない。

なおこのサイトは Google Cloud Platform を利用しているので Google のデータ・センターを使っている。