スパム✕アンチ YouTuber

私がインターネットを毎日使うようになったのは、大学に入学してから。デジタル移民でデジタル・ネイティブではない。でもなんだかんだ20年以上もほぼ毎日インターネットを使っていると、亀の甲より年の功というか、必然と色々な経験を積み知識を得るもの。存在は知っていてもアングラの世界に足を踏み入れたことはないが、いわば「表」のインターネット社会でも多くの諍いを目撃してきたし、スパムやアンチと呼ばれる行為にも数多く接してきた。そんな行為に遭遇した場合、基本は無視するスルー力とも言えるようなものが備わってきた。そして時間があれば焼け石に水だろうがプラットフォームに利用規約違反として報告している。書き込みの中には名誉毀損や侮辱や偽計業務妨害に相当し、刑事民事で問題になりそうなものも多いし、そのような言動が罷り通るのは社会的に良くないと思っている。

SNSが普及する前までは、ネット空間における「表」と「裏」が使い分けられていたような気がする。住み分けられていたとしても「裏」なら誹謗中傷の類が許容されるべきなどとは主張していないし、ひどい被害を受けた人も多く、決して問題を矮小化する意図はない。ただSNSの利用が広まった現在、これまで多くの場合暗黙の了解で「裏」に留まっていたものが表面化して、被害はより多く更に深刻になったと思う。社会問題と認知されてから久しい。基本的にSNSプラットフォームは、内容がどうであれ多く観られれば観られるほど、広告収入に繋がる。人が傷つこうが傷つけられようが金になれば良い。どのSNSでも利用規約に明確に違反する内容が野放しにされているのが現状であり、対処するために必要な人的資本投資や設備投資を行っていないし、謳われている崇高な理念は口先のものに過ぎない。

YouTube はプラットフォームの性質上「スパム✕アンチ」が多くいる。アンチと言っても対象を心底嫌っている真正のアンチではなく、金儲けのために多くの動画を作成する仮性アンチと呼べば良いだろうか。一例として、静止画を背景にして掲示板やSNSやニュース・サイトのコメント欄のデマやガセ情報、または正当な批評批判を遥かに超える人格否定や罵詈雑言や極端な意見を、AIを利用して読み上げたり書き起こしているスパム動画を濫造している人たち。制作コストが低く量産できるし、第三者の意見を取り上げていて直接暴言を吐いていないと予防線を張れる。他のSNSで収益を図るには他サイトへリンクで誘導する必要があったりと、コンテンツ投稿と消費と収益が直結していないことが多い。しかし YouTube の特徴は、収益化の要件を満たせば、どんな内容の動画であっても回って広告が表示されれば良いのだ。再生回数を稼ぐためにできるだけ目立つ、つまりは過激な書き込みやコメントを拾ったり捏造したりして、不安を煽るサムネイル画像やタイトルを作成する。

標的は多くのファンがいる著名人。動画のターゲット層は本当のアンチではなくファン。いわゆる推し活をしているオタク。動画を含めオンライン広告は視聴者閲覧者の属性で単価が変わる。当たり前の話だが、一般論として貧乏人よりも金持ちを視聴者にした方が単価が高い。真正アンチ全員が貧乏人というわけではないが、ファンの方が可処分所得が一般的そして全体的に大きいだろう。なにせ誰かを何かを推すには金がかかる。殊に支出額の大きい分野である俳優や声優やアイドルなど。また嫌われているという人たちでも、大抵の場合はアンチよりファンが多い。つまりスパム✕アンチ YouTuber にとって、できるだけ単価の高い視聴者をどれだけ多く「釣れる」かが重要になる。

ファンは自分が応援している対象について知りたいと願い守りたいと思う。そのため過激で否定的なサムネイル画像やタイトルについつい反応してしまうかもしれない。しかし観たら負け。挑発に乗ったら負け。反論コメントなどしたらもはやスパム✕アンチ YouTuber に加担しているようなもの。肯定であろうと否定であろうと反応がある動画は注目に値するものと判断されてしまい、より多くの人におすすめされることになる。

もちろん YouTube がこのようなコンテンツを排除するのが望ましいが、前述のように放置されているのが現実。このような動画は無視してチャンネルをポリシー違反として報告する。報告してもよほどのことがないかぎりすぐに削除になることは稀で、果たして意味があるのか疑問が残るが、ユーザーとしてできるのはそれくらい。事務所に所属しているタレントが標的であれば、事務所が毅然たる態度で法的手段に訴えるのも良いし、犯罪であれば刑事事件としてどんどん起訴されるべきだが、今はファンがどれだけ無視できるかにかかっている。スパム✕アンチ YouTuber は金目的なので、効率よく金にならなければ辞めるかターゲットを変えるだろう。