ネクロマンサーとネクロマンシー

Google ブックスで何かを探していたら、いつの間にか1870年に出版された羅和辞典 (Lexicon Latino-Iaponicum: www.google.com/books/edition/Lexicon_latino_iaponicum_depromptum_ex_o/WgZDAQAAMAAJ) に辿り着いていた。この羅和辞典は1595年にイエズス会の天草コレジオで刊行された『羅葡日対訳辞書』から抜粋されて (depromptum ex opere cui titulus Dictionarium Latino-Lusitanicum ac Iaponicum [ex Ambrosii Calepini volumine depromptum] typis primum mandatum in Amacusa in Collegio Iaponico Societatis Iesu anno Domini M.D. XCV) いて、ラテン文字で当時の日本語が記されているので、私のような全くの門外漢にとって未知であり非常に興味深い。ただこれから書くことについて、自分がどれだけ無知なのか知らないので、間違って解釈している可能性があることを明記しておきたい。

無作為にページを選び出したところ、ラテン文字Nで始まるページにあたった。それで読みはじめて、ただ単に面白かったのだが、次の2項が目を引いた。

21: Necormantaé, arum. Qui per defunctos divinantur. Xigauio mit vranŏ fito. 22: Necromantia, ae. Divinatio quae fit per defunctos. Xigai, vel xibitouo mit suru vranai.

21の necormantaé は英語の necromancer にあたり、現在の英和辞典なら necromancer は「魔術師・占い師」と訳されている。羅和辞典の和訳は xigaio mite vranŏ fito で「屍骸を見て占う人」だ。 22の necromantia は英語の necromancy で「降霊術・口寄せ・魔術・魔法」のこと。羅和辞典では xigai, vel xibitouo mite suru vranai で「屍骸または死人を見てする占い」と訳されている。

和訳は同義の日本語の単語を記しているのではなく、意味の説明になっている。現在なら necromancer に対して「魔術師」という単語が日本語にあるが、当時はなかったのだろうか。『羅葡日対訳辞書』の成立にはまだ謎の部分が多く、辞書の関わった当時の日本人がどの地方の出身でどのような社会的階層だったのか明らかではないので、もし日本のどこかで necromantaé にあたる単語が存在していたとしても知らなかった可能性がある。そして降霊術や口寄せや霊媒などは、死者の霊魂と人間の間の意思伝達を図るものであり、実際に「死体」を「見る」占いとは違うと認識されていたのだろうか。

ラテン語の per defunctos が「屍骸・死人を見る」となっている。ここで「屍骸・死人」は死んだ人間の身体・肉体を意味していると捉えて正しいのだろうか。ラテン語で cadaver が明確に「死体」を意味する。英語で「死体」は corpse が一般的だが cadaver という単語もある。この羅和辞典で cadaverxigai, xicabane つまり「屍骸・屍」と訳している。また defunctumxigaidefunctus vitâxixitaru mono と、それぞれ「屍骸」と「死したる者」となっている。そして「⋯⋯を通して・⋯⋯を以て」を意味する per が「見る」となっているが、実際に「死体を視覚で目にする」という文章として理解して良いのだろうか。

分からないことだらけだが面白い。これからもいろいろとこの羅和辞典を紐解いてみたい。