タイセイヨウダラ

ここ数日めっきり寒くなってきたロンドン。買い物に行く途中に通るフィッシュ&チップス屋から漂う揚げ物の香りに鼻が敏感になっている。美味そうだな⋯⋯と食指が動くが、中年になって揚げ物を食べると高い確率で胃もたれになるので、今のところ誘惑に耐えている。フィッシュ&チップスの定番メニューは cod & chips だろう。英語で cod と呼ぶ白身魚のタイセイヨウダラに衣を付けて揚げたものに、ふかふかした太いフライド・ポテト (chips) を付け合わせ、塩と酢 (salt & vinegar) を振りかけて食べる。鼻を突く酢の匂いが食欲をそそる。私が子供の頃、某世界的ハンバーガー・チェーン店のセットより少し高めだったが、乱獲されて漁獲量が減ったタイセイヨウダラは高騰し、現在はハンバーガーのセットの倍以上の値段になる。

英国で安くて大量消費される身近な存在から高嶺の花ならぬ高値の魚に変わりつつある cod の語源は不明。英単語の多くはラテン語またはゲルマン語を語源とし、その場合現在のフランス語あるいはオランダ語やドイツ語に似ている。でも cod は違う。フランス語でタイセイヨウダラは morue または cabillaud だ。オランダ語で一般的に kabeljauw と呼ぶ。フランス語 morue の語源は不明で cabillaud の語源は中世オランダ語 cab(b)eliau らしい。オランダ語 kabeljauw の語源も、中世オランダ語 cabeliau / cabbeliau / cabelliau と古オランダ語 cabillaw と遡れるが、それ以前は諸説ありとのこと。

フランス語の単語は他のロマンス語に通じることが多いが、タイセイヨウダラの morue / cabillaud は違う。タイセイヨウダラはスペイン語で bacalao, カタルーニャ語で bacallá, ポルトガル語で bacalhau だ。