世界中で発症例が増えている新型コロナウイルス感染症。ヨーロッパでも北イタリアを中心に広まっていて、英国でも国内感染があった模様。医師の友人によれば、既に多くの人が英国でも新型コロナウイルス感染症に罹患していると考えるべき。英国政府がこまめな手洗いと咳エチケットを新聞やSNSや広告で推奨している。
感染経路、潜伏期間、感染力、重篤度、年代別や健康状態による致死率など、新型コロナウイルス感染症の特徴は明らかになりつつあるが、何が感染拡大を防ぐ有効な手立てなのか各国政府が模索中。中国や韓国やイタリアのように都市や地域レベルで隔離して封じ込めようとする所もあれば、感染拡大をできるだけ遅らせて罹患者の隔離と重篤化の危険が高い高齢者などを重点的に検査すべきという意見もある。
日本では安倍晋三首相が全国の小中高校の休校を要請した。法的拘束力のない首相の「要請」が実際にどれほどの力を持つのか、行政に関して詳しくないので分からないが、果たして妥当だろうか。このような判断にはそれなりの合理性・必要性・適合性⋯⋯つまり事態に見合った対策で比例原則に則っているかどうかが鍵。判断に至った情報と経緯を開示し、国民の理解を十分に得られる透明性のある説明が望ましい。医学的に正しいかは別として政治判断として説明不足の感が否めない。
明らかな説明を要するのは、なぜ現時点で全国で休校が必要なのかという点。これから1〜2週間が感染拡大防止にとって重要であり、学校という空間が職場や公共交通機関など他の場所に比べて感染経路になりやすく、小中高校生の罹患危険が高いという明確な理由があれば、誰も異論を唱えることはないはず。他所に比べてリスクがさして高くはないとしても、校内感染という感染経路の一つを減らすことによって、全体的に爆発的感染リスクを下げるという理由も説得力がある。
しかし、もし画一的に全国規模で休校措置が必要であり相応の対策ならば、要請という形よりもさらに踏み込んだ表現あるいは強制力を用いた方が良いのではないか。休校という要請は首相の指導によるかもしれないが、実際に休校を判断するのは自治体。唐突な要請で混乱を招いたようだ。そして休校しない自治体があり、足並みが揃わず、中途半端になり全小中高校の休校の必要性に疑問符が付く。休校という措置を柔軟に弾力的に自治体が主導して判断し、国が全面的に支援するという形はなかったのだろうか。
そして小中高校を休校にすれば、誰が子供の面倒をみるのか。出勤できなくなるが、急に休暇を取ることもままならない⋯⋯という家庭も多いだろう。社員職員が出勤できずに困る企業や団体も多くあるはず。また休校になれば、給食費や給食業者はどうなるのか。いくら助成金や補填があったとしても、いつどれほどの金額が支給されるのか、まだ明らかではないし、その前に家計が苦しくなったり経営難になったりすることも想定できる。
現在のような状況だと、国民の多くが「国は何をしているのか、首相は何をしているのか」そして「国や政府は何か対策を講じろ」と思っているだろう。この休校要請は「何かしなければならない」という理由で行われた可能性はなかろうか。休校というのはインパクトが強いが、例えば外出を減らすために公共交通機関を運休することに比べれば経済への影響は小さい。政治家や官僚の多くは休校によって困る保護者が多いことを考慮しただろうか。これは想像力の問題とも言える。急に休校になった場合の影響が家庭によっては多大であることを想像しえたのだろうか。全校休校という要請は「指導力を発揮した」というアピールまたはアリバイ作りということはなかろうか。これはどの国でもどの政治家にも起こりうること。
いずれ新型コロナウイルス感染症が収束した後、因果関係を証明するのは難しいだろうが、休校措置が果たして有効であったか専門家による検証が行われるべき。休校したから感染を遅らせることができたという肯定的結論、休校は新型コロナウイルス感染症の拡散に関係なかったが大きな経済的コストがあったという否定的結論、いろいろな調査結果がありうる。また国と自治体の権限についても考える必要がある。次に似たような規模の感染病が発生した場合、どのように対策をするのか、専門家と行政が教訓を学び、国際連携を強くすることが重要だと思う。