もう何ヶ月も前のこと、ロンドンでは晩夏の日と初秋の日が交互に訪れるような時期、友達と一緒にロンドンの Harold Pinter Theatre で「ハムレット」を鑑賞した。安いチケットだったので、舞台の四分の一ほどが見えない最上階の最後列の最端の席だった。教養が足りないので、月並みな感想文すら書けないだろうが、完全に忘れる前に書き残そうと思う。
「ハムレット」はシェイクスピアの劇の中でも有名。主人公ハムレットは、とっつきにくいというか、感情移入がしにくいというか、他の登場人物のみならず、観客さえも突き放すようなデンマーク王子である。でも独りよがりではないと思うのは、間違っているだろうか。いずれにせよ、ハムレットは他の登場人物を圧倒している。準主役と呼べそうな登場人物もなく、主人公を引き立てるような好敵手も見当たらない。他は全員脇役であり、あくまでも、ハムレットという人間の内面と葛藤が描かれている。
大役であり、どのようにして悩めるハムレットを引き出せるか、技量を問われるので、役者としてはやりがいのある役でもあろう。ハムレットを演じた Andrew Scott 氏は良かった。ゆっくりとした口調で、ぽつりぽつりと呟くように台詞を言っていた。いかにも悩んでいるというか迷っている雰囲気を醸し出していた。シェイクスピアの史劇の時代設定を変えることは難しいが、悲劇や喜劇なら時代設定を変えることができる。演出家の手腕の見せ所。この「ハムレット」は現代を舞台としていて、例えば亡父の亡霊は監視カメラに映るという演出だった。これも良かった。
結局「楽しめた」ということ。味わいまたは意義深い感想文はやはり書けない⋯⋯。