『I BELIEVE』・『負けないで』

自分の子供時代や若かった頃のことを思い返すようになって他人に語りだしたら、正真正銘のおじさんだと誰かが言っていた。私は正真正銘のおじさん。昨晩どうも寝付けず、朝方変な夢を見て、睡眠時間が3時間ほどだった。このような時に限って集中力を要する仕事が回ってくるのはなぜだろうか。仕事を片付けたが昼寝をする習慣もないので、夕方からだらだらと YouTube で動画を観てしまった。生まれたのは日本だが、物心が付いてから日本に住んでいたのは幼稚園の年長から小学5年の夏まで。それ以外つまりこれまでの人生の大半は基本的に英国に住んでいる。

1990年代前半、まだインターネットが一般家庭になかった。1990年代後半になって、インターネットがあったとしてもダイアル・アップ接続で、とても動画を観るような環境ではなかった。当時最新の日本の情報は新聞や在外邦人向けの有料衛星放送チャンネルから得ていた。衛星放送局はNHKと民放各局の番組を混ぜて1つのチャンネルとして放送していて、日本ではありえないような番組表になっていた。ニュースの他にドラマや音楽番組やバラエティー番組もあった。ドラマなどは日本から遅れて放送されることもあったが、それでも数カ月ほどだったような気がする。そのため1997年までは日本の音楽やスポーツや芸能に関しての知識が朧げながらもあるが、そのあとはインターンシップや大学進学のため衛星放送を観ることもなく、時計が1997年で止まったまま現在に至るまで浦島太郎状態。

日本のニュースはウェブで読むので政治などは一応理解しているつもりだが、流行や芸能についての知識はニュースにならないかぎりほとんどない。日本に一時帰国するたびに「ゆるキャラ」と「アイドル・グループ」が増えていて困惑する。今ならVPNを使ったり、動画共有サービスに違法にアップロードされている動画を観ることができるだろうが、そこまでの興味はない。20年以上追いつかないといけないのはあまりにも億劫。でも公式 YouTube チャンネルに登録して機会があればいろいろと観てみようかと思っている。

これは同年代でも個人差があるだろうが、野球の監督といえば西武の森祇晶氏で、強打者というと原辰徳氏と清原和博氏。落合博満氏の名前も必ず挙がるべきなのに、なぜか印象が薄い。テレビ番組『笑点』の司会者は5代目三遊亭圓楽。女性アイドルとして真っ先に思い浮かぶのが中山美穂氏と酒井法子氏。清原氏と酒井氏が薬物に手を染めていたのがニュースになって驚いたもの。なにせ野球選手と紅白歌合戦で手話を交えて歌ったアイドルという印象が強かったから。

音楽では小室哲哉氏の全盛期時代を知っているが、宇多田ヒカル氏や浜崎あゆみ氏の本格的な登場前に知識が途絶えている。女性ユニットの『SPEED』は覚えているが、『モーニング娘。』になると覚えているような覚えていないような。歌手として存在感を放っていたのが安室奈美恵氏と華原朋美氏。安室氏は数年前鮮やかな引き際で話題になったが、私の知っている安室氏は『CAN YOU CELEBRATE?』の安室氏と表現すればよいだろうか。華原氏の人生は順風満帆とは呼べないが、それは主に私の知らない時期の話。安室氏の『CAN YOU CELEBRATE?』以外の楽曲はすぐに思い浮かばなかったが、華原氏の『I’m proud』と『I BELIEVE』の曲名はすぐに思い出せた。

華原氏が2013年にセルフ・カバーとしてリリースした『I BELIEVE』のMV (youtu.be/pKbMVYmYCN4) を観て鳥肌が立った。この曲はひょっとしたら20年以上聴いていなかったかもしれない。1990年代は『I BELIEVE』よりも『I’m proud』の方が好きだったと記憶しているが、今は『I BELIEVE』だ。華原氏の衰えるどころか増した歌唱力と表現力に圧倒されて感動した。昔は小室氏が頻繁に歌詞に挿入したちょっとへんてこな英語に興醒めしたが、今は気にならないのが何とも不思議。

そのあといくつかの動画を経て⋯⋯ZARDの『負けないで』 (youtu.be/NCPH9JUFESA) のタイトルを見ただけで、もう何年も聴いていないのに、頭の中で歌声が流れはじめて、目頭が熱くなってしまい、再生したら1回目の

「負けないで もう少し」

の箇所で自然に涙が溢れた。

寝不足で疲れていて精神的余裕がなく情緒が不安定なのかもしれないが、自分でもこの反応には驚いた。それだけ10代に聴いた曲が強烈に潜在意識に残っていたのだろう。1997年後に断絶があって記憶している曲数が少なくその分それぞれの曲の濃度が高いのも理由かもしれない。20年以上経ったらこれらの曲を聴いていたく感動するとその当時は思っていなかったはず。涙腺が簡単に緩むのもおじさんになった証拠。

世代を超えた不朽の名曲は存在するが、それ以上に心に響いて後々聴いて感動する曲というのは世代それぞれ個々それぞれ。私の場合は『I BELIEVE』や『負けないで』で、他にもまだ記憶の中に閉じ込められている曲があるかもしれない。今の10代の人々は20年後どんな曲を思い出して聴いて感動するのだろうか。