ここ数日の厄介な仕事や作業が一段落したので、再びとりとめのないことを書く。この記事を草稿として書き出したのはオランダ対米国の16強の試合前だが、書き終えたのは準々決勝の試合前になってしまった。どうしてもよく観るヨーロッパ代表の断片的な印象が中心になってしまう。もっと様々な国と地域のサッカーを観なければ⋯⋯。サッカーほど世界的なスポーツはなく、選手や代表や応援の形も多種多様で観ていて飽きない。スポーツそしてエンタメ一般は頭でっかちに分析するものではなく、観て楽しむものだろう。スポーツは楽しむというよりもハラハラドキドキの方が多いかもしれないし、勝ったときの高揚感と負けた時の悲嘆を味わうもの。
3回決勝に進出して3回とも負け、まだW杯優勝がないサッカー強豪国として有名なオランダ。最近素晴らしい選手が揃った時期が、ちょうどスペインの黄金期と重なったのが不運だった。今のところ順当に勝ち上がって、次は準々決勝でアルゼンチンと対戦する。率いるのは Louis van Gaal 監督で、有力候補ではないがひょっとしたら優勝するかもしれない代表。現在のチームはオランダらしくないオランダなどとも言われる。紙面上フォーメーションは4−3−3で常に真ん中に点取り屋の spits がいるチームという印象が強く、そうあるべきだという声がオランダでは強いらしいが、今はそんなストライカーが不在。過去や理想や型に縛られず、監督は招集できる選手に合った作戦を練るのが大切だし、結局全ては結果次第。2010年大会決勝で敗れたオランダ代表もある意味 totaalvoetbal からかけ離れていたが、勝つための作戦としては妥当だった。中盤に Mark van Bommel 選手と Nigel de Jong 選手がいたので非常に強固になって相手の流れを断つことができた。英語の表現を借りれば、流れよりも断片的な scrapy な試合。スペインの tiquitaca 方が流動性では totaalvoetbal の継承者だったかもしれない。話を現在のオランダ代表に戻すと、守備の Virgil van Dijk 選手、中盤の Frankie de Jong 選手、前線の左右の Memphis Depay 選手と Cody Gapko 選手と中央のストライカーが不在でも芯の強いチームだが、まだ何か物足りなく見えてしまうのは、過去のオランダ代表とどうしても比べてしまうからだろうか。
アルゼンチンはチームの中で個の比重が大きい代表と言えるだろう。スーパースター Lionel Messi 選手ありきのチーム。もし Messi 選手がいなければ、かなりの戦力低下になる。ゴールを決めるのはもちろん、他のアルゼンチン選手がゴールを決められるようなパスを出したり、空間時間環境を作り出す Messi 選手は本当に凄い。定点でピッチ全体を見渡せるカメラがあれば、ずっと Messi 選手の姿を追うだろう。技術とチームの試合展開への貢献度は現在のサッカーにおいて無比の存在だと思っている。ただサッカーはチーム・スポーツ。一人の選手にできることは限られている。アルゼンチンは決して弱いチームではないし、サウジアラビアとの対戦以外ではきちんと勝っている勝負強さがある。僅差であまり流動的ではない試合展開の中でいかに Messi 選手に局面局面で才能を発揮させることができれば有利に思うが、これから勝ち上がれるだろうか。あと3試合勝てる力はあるかと訊かれれば、十分にあると答えるだろうが、優勝の最有力候補かと訊かれたら、答えるのに戸惑う。
イングランドも優勝候補の一角だと思う。昨年行われた欧州選手権で7試合中6試合をホームのウェンブリーで行ったということを加味しても準優勝は素晴らしい結果。今回のW杯で大きいのは Jude Bellingham 選手が代表に加わったこと。試合の流れを読み、中盤を攻守両面でまとめる存在感ある選手で、イングランドにはこれまであまりいなかったタイプだと思うし、これからのイングランド代表の核になると期待している。イングランドは得点力という面では非常に優れているし、どんな相手でもゴールを決めることができる。でも1点を争ったりリードを守り抜く展開だと、どうしても守備に一抹の不安を覚える。英国英語でいう centre half つまりCB(センター・バック)の Harry Maguire 選手と John Stones 選手のコンビのこと。決して悪い選手ではなく、CKやFKの空中戦の守備では安定した強さを見せるが、オープン・プレーでの判断に疑問符が付いたり、リターンの割に高リスクの行動を取ったり、相手チームに空間を与えたりと、英国メディアで酷評とまでいかなくてもかなり辛口の評価を下されている。現在のイングランド代表は中盤と前線で2002〜6年の「黄金世代」をすでに凌駕していると思っているが、守備では「黄金世代」の Rio Ferdinand 選手や Sol Campbell 選手や John Terry 選手の方がどうしても安定していたというか、安心して観ていられた。常に比較されるのは不公平であり気の毒な話。イングランドにとってフランスは非常に手強い相手になる。準々決勝はどのチームにとっても山だが、イングランドにとってこの山は特に高いのではないかと思っている。そしてもしイングランドが勝てば、そのまま優勝してもおかしくないと考えている。
フランスはひょっとしたら連覇の可能性があるのではないかと思っている。私がフランス代表の中で一番好きな選手の N’Golo Kanté 選手に怪我がなく出場できていれば、もうちょっとフランス優勝の確率を高く見積もっていただろう。フランスのスター選手は Kylian Mbappé 選手だが、点取り屋として Karim Benzema 選手というずば抜けた才能を持った選手がいる。今回のW杯直前に怪我で離脱。前回のW杯でフランスが優勝したときには招集されなかった。これまで私生活や言動でいろいろとゴタゴタがあって、チームの一体感としては必ずしもプラスではないとも噂される存在。フランスにとって Mbappé 選手と Benzema 選手と Antoine Griezmann 選手が揃うと、船頭多くして船山に上るというか、3乗の結果ではなく、優秀過ぎるゆえに空回りするような気がして、9番らしい Olivier Giroud 選手を一番前にして、10番として自由に動く Griezmann 選手を置いたほうが良いと思ってしまうのはおかしいだろうか。
日本とクロアチアは互角でPK戦で結局クロアチアが勝った。日本はこの大会で強いチームになったと前に書いた。1点先制されても逆転する力、逆転したらリードを守り抜く力。トーナメント方式の大会で次に進むにはPK戦で勝つことも挙げられる。日本代表にすれば収穫の多かった大会になった。90分で見れば2勝1敗1分。それもドイツとスペインに対して勝ち、クロアチアに対して引き分けたのだから、非常に良い結果。日本代表選手たちは称賛されるべきだし、拍手を送りたい。でも選手たち本人には悔しがってほしいとも思う。やりきったのではなく悔しいと感じるのは、まだまだ自分たちにできることがあって伸びるところがあるという確信があるからだ。クロアチアはしぶといチームだし、日本との試合で素晴らしいゴールを決めたが、やはり決定力不足の印象は否めなず、次のブラジルとの対決には勝てないだろうと予想している。
ブラジルが優勝候補筆頭とも言われているのが如実になったのが、韓国との対戦の前半だった。後半はもはや消化試合の様を呈していた。ブラジルに有り余る空間と得点機をいくつも与えれば、いずれゴールを決められてしまうだろう。点を取り合うような試合展開だったら、ブラジルは非常に強いだろう。ただセルビアやスイス相手にゴールを決めたのは後半であり、組織的守備をいかに崩せるかはブラジルにとって鍵になるかもしれない。また守備では両翼の後ろにかなり空間があるように見える。攻撃には申し分ないが、前へ進む選手が多いため前のめりというか、接戦になったときにきちんと守れるだろうか。でも中盤に Casemiro 選手がいるので、安定しているように見える。
スペインがモロッコにPK戦の末に負けたのは意外ではあったが、非常に驚くことではなかったのかもしれない。昨年の欧州選手権でのスウェーデン戦はスペインにとってセビリアのスタジアムで行われたためホーム戦だったが、90分でボール保持率86%・パス917本・パス成功率90%・シュート17本(枠内は5本)という数値で、0:0の引き分けに終わっていた。今回のW杯でもグループ・ステージで日本に負けた。昨年の欧州選手権と現在のW杯のスペインのサッカーは、黄金期の tiquitaca とはかなり違うように見える。記憶を美化しているかもしれないが、2008〜12年のスペインの凄まじさは相手陣地の奥深くで幅を狭くしたうえで正面突破を試みていたところ。選手と選手の距離が短く、得点への糸口を掴もうと常に攻める姿勢だった。対戦相手にとって表現は悪いかもしれないがずっと真綿で首を絞められつつ急に一撃で仕留められてしまうサッカーだったが、今のスペインのサッカーは似ているようで本質的に異なると見ている。守備的というか、球を後ろの守備まで戻して横に回すことが多くなったし、守備選手が縦にドリブルで進んだりパスを出したりする回数が減った。緩急がなくなって冗長に見える。黄金期のスペインのサッカーでさえ「つまらない」と一部で不評だったが、現在は相手陣地で球を持ちながら守備をしているのではないかと思ってしまうことも。
スペインの拙攻に注目するよりも、モロッコの堅守とPKを決める能力を称えるべきかもしれない。データに裏付けられているかどうかは疑問だが、ここ数大会の印象として北アフリカ勢とメキシコはチームとしてまとまっていて、動きが活発で良い試合の形を作るのだが、あと一歩で得点できず、相手にゴールを決められてしまい、グループ・ステージを突破したとしても16強の時点で敗退する。今大会のモロッコはカウンターの素早さと運動量はもちろんだが、守備そして中盤に隙がなく集中力が途切れず型が全く崩れない。当たり前の話だが、点を取られなければ負けない。スペインとの対戦を含めて今大会4試合で1失点。失点もオウン・ゴールで相手に決められたわけではない。ポルトガル相手に守りきれるかが焦点になる。モロッコは相手に先制されたら追いついたり逆転する力があるだろうか。ボール保持率と中盤までの流れの作り方はスペインの方が上だが、ゴールを決める力はポルトガルに分があると思う。トーナメント表を見たときに順当であればスペインとポルトガルが準々決勝で対決してポルトガルが勝つなどと予想していた。
16強の試合で一番予想外だったのがポルトガルがスイスに圧勝したこと。結果というよりも得点差に。この試合は延長やPKまでもつれ込むのではないかと踏んでいた。優勝候補ではないし、ポルトガルに勝つ確率はあまり高くないが、ひょっとしたらポルトガルに勝って、番狂わせとして結構先に進むのではないかと予想していたのがスイスだったから。ここ何回かの国際大会で主力選手が同じで、年齢的に今回がW杯としては最後の機会になるだろうし、今が絶頂なのかもしれないと思っていた。昨年の欧州選手権の16強でフランスに1:3とリードされながら最後の10分で追いついてPK戦で勝った印象が強かったせいだろうか。ポルトガルは Cristiano Ronaldo 選手を先発から外したことで大きな話題になった。世界的なスター選手だが、ポルトガルは Ronaldo 選手がいないほうがより素早くそして違う方法の攻撃を仕掛けられるとも言われているし、実際にその様にも見えた。2016年の欧州選手権優勝チームより現在の代表の方が強いと思うし、世代交代というよりも新陳代謝と表現できるだろうか、一気に選手が入れ替わるのではなく若い選手が加わってきて、長年にわたって一定の強さを維持できている⋯⋯などと朧気に考えていたら Pepe 選手が大活躍していた。