短評 | Osman’s Dreams

Caroline Finkel

Osman’s Dreams: The Story of the Ottoman Empire 1300-1923

London (John Murray), 2006

ISBN: 13 978-0-7195-6112-2 (paperback)

ヨーロッパ近世史で、重要なのにあまり知られていない国と言えば、やはりオスマン帝国。15〜17世紀はヨーロッパの他の国々と人々を震駭させ、18・19世紀にはロシアとハプスブルクに攻め立てられ、強くても弱くてもヨーロッパの勢力の均衡を脅かした。そのオスマン帝国の始めから終焉までを書いたこの本は、読み易く、全体像を見ることをできる。

オスマン帝国は、「ヨーロッパの国」と呼んだ方がよいだろう。エディルネにしろイスタンブールにしろ、首都はヨーロッパ側にあったし、文武高官はヨーロッパ出身者が多かった。

長い間アナドル(アナトリア)は完全に掌握されることはなく、オスマン帝国がマメルーク朝にかわりイスラムを代表する帝国となるのは、16世紀になってからだった。アラビア半島も直接的な支配に置かれることもなかったし、北アフリカの領土に実効支配が及ぶこともなかった。敵は西のキリスト教国のみではなく、東のシーア派のペルシアとも矛を交えた。

17世紀後半になると政治・軍事・税制・経済各制度の硬直化が著しくなり、版図を広げることによって財政を賄うことはできず、守勢に立つと領土内の住民からの徴収を増やすことに苦慮した。政治的にも不安定な状況が続き、抜本的な改革を試みたスルタンも廃されたり殺害された。

一冊の本に詰め込める情報は限られているので、専門書とは言い難いが、最初にオスマン帝国について知りたい場合には是非読むべき本。