サッカー・アジア杯決勝:日本対オーストラリア

2011年1月30日

あのボレー・シュートは素晴らしかった。大会優勝を決めるに相応しいゴール。あの場面で見事に決めた李選手、そして前の試合に続いて、攻撃の要となり、李選手への完璧なクロスをした長友選手は称賛されるべき。

後半開始後10分程という早い時点で、長友選手がもっと前に出られるようにした岩政選手の投入はザッケローニ監督の采配が冴えていたことを示している。選手たちの進言を取り入れたようだが、最終的に判断を下すのは監督。冴えていたのは、延長に入ってからの李選手の交代もそう。岩政選手投入後は、長友選手が前に出ることにより、遠藤選手もやや前に上がるようになり、攻撃の主軸が形成された。一方の右側も内田選手が積極的に上がることによって、長谷部選手も攻めることができ攻撃方法が増えた。こうすると前の選手たちの動きも活きた。藤本選手には藤本選手の位置と能力があるが、この設定と対戦相手では影が薄かった。この岩政選手投入までは、中盤で苦戦して、攻撃と守備の連繋に齟齬をきたし、ボールを持てず取れず、どちらかと言えば押され気味だった。守備の布陣替えを行った、状況に合わせる柔軟性は監督に絶対必要で、ザッケローニ監督にはそれを決断する力があり、選手それぞれの能力を良く知っていて信頼していて、また選手から信頼を得ているのだろう。

しかし、勝ったから良い試合内容かと言えば、必ずしもそうではない。点を取られなかったのは、守備もあったが、川島選手の連続の好セーブ、オーストラリア攻撃陣の拙攻、そして運によった。ゴール・キーパーは英雄になることがあれば、致命的なミスを犯してしまうこともある、点と勝敗に直結する立場。いくら名キーパーであっても、100発中100発止めることはできないし、李選手のシュートのように絶対止められないこともある。ゆえに守備の精度を高める必要がある。誰がどこで誰を相手にどのような状況でどのように守るのか、例えばどのような時であれば外に出すのか、どの場合であればキーパーが捕球するのか、あらゆるシナリオを徹底的に叩き込み、選手全員が自分の役割を認識する必要がある。このためには相手選手とチームの特徴や攻撃方法や癖を把握して、各選手の体が自然に動くようにしているはず。この決勝戦でも結構危ないところもあったし、結果としては良かったが、ほんの僅かな所でずれていて、ほんの少し遅れていたような場面が多かったような気がする。もちろん、この試合では点を取られなかったので、守備が成功したとも言えるかもしれないし、準決勝のときよりもマークはよくできていたが、もっと上を目指すならこれからさらに磨きをかけないといけない。

試合には流れがあり、終始1チームが主導権を握る続けることは稀。そしてこの試合のように、攻められても守り、少ない好機のひとつを点にしたのは、勝負強さを物語っている。しかし、相手に与える機会を少なくし、得意とする攻撃方法を無力化し、球を奪っては保ち続け、バリエーションに富んだ攻撃で得点の機会を増やし、そして作り出したり回ってきたりした機会を得点にすることはどのチームにとっても課題。特に数年前に比べ非常に選手層が厚くなり、独自のスタイルを確立しつつある日本には、パスや選手の動きの連繋など、サッカーのプレーの一場面一場面の精度を高めることは、より強い国と伍するためには必須課題となるだろう。まだまだ伸び代があるのは選手自身が一番分かっているだろうし、今後さらに期待できるのではないだろうか。