昨日(2011年3月27日)行われたドイツ南西部のバーデン=ヴュルテンベルク州、西部のラインラント=プファルツ州、そしてフランスの地方選挙の第2次投票の結果について短く考えをまとめておく。
ドイツ 緑の党大躍進
旧東ドイツに属していた州を除き、ドイツの政治は2大政党制を基本としている。キリスト教民主同盟(CDU: Christlich Demokratische Union)か社会民主党(SPD: Sozialdemokratische Partei Deutschlands)と自由民主党(FDP: Freie Demokratische Partei)か緑の党(Bündnis 90/Die Grünen)の連立が州議会では通常の形態。キリスト教民主同盟と自由民主党の「黒黄」連立が現在連邦政府を構成しているが、州議会を見てもバイエルン(キリスト教民主同盟の姉妹政党キリスト教社会同盟と自由民主党)、ヘッセン、ニーダーザクセン、ザクセン、シュレースヴィヒ=ホルシュタインで「黒黄」が連立政権を組んでいて、さらにザールラントでは緑の党も加えた「ジャマイカ」連立が政権を握っている。昨日までバーデン=ヴュルテンベルク州も「黒黄」連立が政権の座にあったし、1953年以来キリスト教民主同盟の政治家が州知事に就任していた。
バーデン=ヴュルテンベルクは、豊かな地域で、大都市があまりない、政治的には完璧に中道右派と表現してもよいだろう。キリスト教民主同盟が1党で過半数を得ることはなくても、政権党の立場が揺らぐとは思えないような場所。そこで負けた。負けたと言っても議席数では第1党。得票率39.0%(前回比:5.2%減)で138議席中60議席獲得。でも連立の相手の自由民主党が振るわず、5.3%の得票率(前回比:5.4%減)で7議席で過半数には届かなかった。「黒黄」に対する軸は「赤緑」で社会民主党と緑の党の連立で、こちらが勝利。しかし驚くべきことは、緑の党が社会民主党を抑えて第2党となったこと。緑の党の得票率は12.5%増で24.2%、獲得議席数は36で、得票率23.1%議席数35の社会民主党を上回った。緑の党は単純小選挙区でもマンハイム2区、ハイデルベルク、シュトゥットガルト1・2・4区、テュービンゲン、フライブルク1・2区、そしてコンスタンツで勝利。対して社会民主党はマンハイム1区のみ。残りは全てキリスト教民主同盟が獲得。ちなみに前回は70小選挙区の内、69区でキリスト教民主同盟が勝利。
一方ラインラント=プファルツでは社会民主党が単独過半数を握っていたが、こちらでも緑の党の躍進あって、社会民主党は過半数割れ。これから交渉があるだろうが「赤緑」連立となりそうだ。改選前の勢力は議席101中、社会民主党53、キリスト教民主同盟38、自由民主党10だった。今回社会民主党の得票率は9.9%減の35.7%で議席数は11議席減の42。キリスト教民主同盟の得票率は2.4%増の35.2%で議席数は3議席増の41。社会民主党にとっては党勢回復とは全く言えない状態。前回2006年選挙で緑の党は比例得票率が4.6%と5%に届かず、議席を得ることができなかったが、今回は15.4%の得票率で18議席を獲得。一方自由民主党は前回8.0%の票を得たが、今回は4.2%と5%に届かなかった。
どちらの州選挙において、メルケル首相にとっては手痛い結果となったが、自由民主党にとっては大敗退。なにせ、ラインラント=プファルツでは5%を割り、バーデン=ヴュルテンベルクでは危うく5%を割るところだった。緑の党の強さはどの党からも票を得ることができること。もちろん現連邦政府に対する反対票も取り込んだだろうが、左派から中道右派にまたがる支持層の幅の広さは他党には見られない。
ちなみに、原発撤退を訴える緑の党にとって、福島第1原発問題は追い風になったと報道されている。
Süddeutsche Zeitung: Krise, Krise, Kretschmann
Stuttgarger Zeitung: Die Grünen sind ganz oben angekommen
Frankfurter Allgemeine: Beck bleibt | Grüne verdreifachen ihr Ergebnis
フランス 左派優勢? 右傾化?
フランスの地方選挙では左派が優勢。昨日3月27日に行われたのは第2次投票。一部選挙区の第1次投票では極右の国民戦線(FN: Front national)がかなりの票を得たが、結局2議席を獲得したのみとなっている。なお、第1次投票で当選するには投票率最低25%という条件で過半数を得る必要がある。該当する候補がいなければ、第2次投票が行われる。第2次投票には、第1次投票で登録有権者数比12.5%を得た者が進む。一人の候補者だけ登録有権者数比12.5%以上50%以下の票を第1次投票で得た場合、またはだれも登録有権者数比12.5%の票を得なかった場合は上位2名による決選投票となる。
ドイツのように幾つかの政党が中心の政治体制とは違い、フランスでは実に多くの政党や政治観を持つ人々が立候補し選出されるので、中道左派から共産党を含めた「左派」、国民議会(下院)と元老院(上院)でサルコジ大統領を支持する「右派」、そして極右の国民戦線の3ブロックと分析する向きがある。前回2008年左派の得票率は47.7%で今回は49.9%。社会党(PS: Parti socialiste)は36.2%を占める。一方、右派は40.7%から35.9%に落ちた。右派の中核を成す国民運動連合(UMP: Union pour un Mouvement Populaire)は18.6%を獲得。そして国民戦線が4.8%から11.6%に上昇。右の支持者がより右傾したと見るべきだろうか。
Le Monde: Élections cantonales 2011
Le Figaro: Cantonales: le PS en tête, le FN obtient deux élus
中道右派政権に打撃?
独仏両国では中道右派が現在政権を運営しているが、これらの結果は打撃だろう。確かに中道右派・右派の負けではあるが、だからと言って中道左派・左派の勝利とも呼べないのが現実。ドイツで勝ったのは緑の党であり、フランスでは中道右派・右派から極右に票が流れた。州選挙や地方選挙と国政選挙には差があるし、必ずしも同じような結果となるわけでもない。ただメルケル首相、そして再選を目指しているサルコジ大統領にとって、今後自分の支持政党や会派の中での求心力が低下する可能性がありそうだ。