Juliet Barker
Agincourt (London: Abacus, 2006)
Conquest (London: Abacus, 2010)
イングランド中世期の国王には傑物が数名存在する。列挙すればウィリアム制服王、リチャード獅子心王、エドワード1世、エドワード3世、そしてヘンリー5世。シェイクスピアの劇と映画化もあるが、この中でもヘンリー5世は結構認知度が高い方に属す。ヘンリー5世と言えば、1415年のアジャンクールの戦い。やはり寡兵をもって多数に対して完勝することには、拍手喝采を送りたくなるものだろうか。
Agincourt はヘンリー5世という人物を中心に、アジャンクールの戦いまでの経緯、そして戦いの模様を描き、Conquest は1417年にノルマンディーに再上陸したヘンリー5世がいかにして北部フランスを制服し、以後30年間ほど、イングランドが北部フランスを支配したかを語っている。歴史家による歴史家のための歴史書というよりも、一般読書向けであり、読み易く、主な人物に焦点を当てている。
アジャンクールでの勝利は、ヘンリー5世という有能な指導者が、絶対的な確信をもって戦いに臨み、フランス側の重装備騎士が力を発揮できないような地形を選んだところにあるという。一方フランス側は指揮系統が確立されず、兵数では上回っていたものの、それを活用できず、重装備の騎士が泥濘んだ地面に足を取られ負けたとしている。なお、イングランドとフランスの兵数の差には諸説あるが、著者はかなりの差があったという意見である。
確かにアジャンクールは鮮やかな勝利であったが、それ以上に重要だったのが、この戦いにて北部フランスの指導者たちの多くが命を落としたこと。つまりヘンリー5世が再上陸したとき、北部フランスを守り侵攻者に抵抗するような人々が2年前に戦死したため、イングランド軍はまさに破竹の勢いで北部フランスを占領した。
しかし、アジャンクールの戦いでの勝利と北部フランスの占領を可能としたのは、イングランドの国力のみではなく、フランスの内紛によるもの。自分が正統のフランス国王であるという確信もあったが、ブルゴーニュ派とアルマニャック派の軋轢があったからこそ、戦略眼のあるヘンリー5世は戦争を仕掛けた。もしシャルル6世が先に死亡し、ヘンリー5世がフランス国王として即位したり、イングランドとブルゴーニュ派の連繋がより強固であったならば、歴史は違ったかもしれないが、フランスにおけるイングランドの立場はブルゴーニュ派とアルマニャック派の対立があったから成り立った。この両派が和解し、イングランドがヘンリー6世という弱く若い君主の下で内紛状態に陥ったとき、フランスにおけるイングランド領は一挙に瓦解し、百年戦争は終結へと向かった。