Leo Hickman, The Final Call (London, 2008)
観光は多くの国や地域にとって基幹産業で、多数の人が観光客を迎えることによって糧を得ている。そして発展途上国にしてみれば外貨獲得の手段でもあり、観光産業による発展を掲げる場合もある。これから観光は経済分野の中でもさらに伸びると予測されているが、果たしてどんどん観光客が増えることは良いことなのか、いろいろと考えさせられるのがこの本。
大きな問題として、まずあげられるのが観光が環境に与える悪影響。これはもちろん長距離を飛行機で飛ぶこともあるが、観光地の急速な開発による環境破壊や生態系への影響、そして資源の枯渇があげられる。特に水資源と排水・下水処理が開発に追いつかないことが如実に語られている。開発されれば「必ず」と言ってよいほど造成されるのがゴルフ場。しかし人工的に美しく緑色のゴルフ場を保つには大量の水と殺虫剤や除草剤が必要となる。
同様に自然破壊のみではなく、地元の文化や生活に与える影響も悪い場合が多い。観光客は他の文化に触れてみたいが、それでも一定の設備を求めるし、ただ観客として楽しむだけのことがほとんど。もちろん余暇で何も考えずに気楽に過ごしたい気分は分かるが、現地にどのような影響を与えているのか、もうちょっと自覚するべきかもしれない。
観光客を受け入れる側も、しっかりとした計画がないと、無造作な開発が行われる危険性がある。例えば、最初は秘境で高級だった場所も、もっと観光客を呼び込むことによって利益をあげようとすると、乱開発となってしまい、値段も客の質も落ちてしまう。
決して観光に行くなということではない。ただ個々の観光行動がどのような結果を齎すのか、もっと秤にかけて判断といけないのではないだろうか。そんな問いかけをこの本の著者は行っている。