文章を翻訳するとき、いろいろと困ることがあるが、その中でも頭を抱えてしまうのが、翻訳しようとする文が意味を成さないとき。何回読んでも文脈に沿って読んでも、意味が不明あるいは不明瞭。原作者が推敲を怠ったこともあるが、特にリレー翻訳の場合にそのような場面に遭遇する。ここでのリレー翻訳とはA>B>Cのように、原文が一旦翻訳されてその翻訳された文章が再び翻訳されることで、B>Cの翻訳を担うとき。つまり翻訳の翻訳。なぜリレー翻訳が存在するかというと、専門知識を有する翻訳者があまりいない言語や分野だったり、単価が高い翻訳市場の場合、翻訳者を二人雇った方が素早く済み安上がりであるため。原文が手元になく、たとえあったとしても読めないので、どうしても最初の翻訳(者)を頼りにすることになる。そしてA>Bは翻訳のための翻訳なので、入念にチェックされた訳文ではないこともある。
言語はそれぞれ違うので、翻訳とは必ずしも一字一句一対一に置き換える作業ではない。もしそうであるならば、すでにコンピューターによる翻訳ができているはず。ただ専門用語や適宜の定訳は存在し、そのような場合は翻訳に一貫性を持たせる必要があるため、コンピューター・プログラムを使うこともある。もちろん専門用語や定訳以外でも、原文に忠実であるべきだし、遺漏があってはならないが、型にはめて置き換えればよろしいというわけではない。文法的に正しくても意味は不明瞭で、文体は非常に不自然という訳文が多いのは、一字一句できるだけ忠実に翻訳しようとした結果。ときとして全部訳せば意自ずから通ずとでも思っているのか、原文を完全に理解しないまま、翻訳しているケースもある。また、翻訳者は完璧であるわけではなく、いくら正確であったとしても、どうしても原文の「何か」が失われてしまう。リレー翻訳の場合は、二回文章を訳しているので、いくら翻訳者が優秀であっても、最終の訳文にはやはり原文との距離ができてしまう。
次にリレー翻訳を行うことになったら、原文が明瞭であり、最初の翻訳者が上手に翻訳してくれたことを願うだけ。